Old Dancer's BLOG
ここはてりぃが、趣味の共通する方々との得がたいつながりのために、自分の趣味に関係する諸々のことを、壊れながら書きつづるブログです。
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氷菓 第十九話「心あたりのある者は」
 他の誰も、その時間があったことを、知らない。


 当の自分たちも、その時間がどういうものであったのかを、正しく思い出せない。


 記録に残らず、記憶にも残らない。そんな、「無印」の時間。


 しかしそれは、二人の今を形作っている貴重な時間のひとかけらだ。


 他の誰もそれを知らず、自分たちも正しく思い出せないような、何ら特別でないその時間たちは、いくつも積み重なって確かな今を作る。そうして出来た確かな今もまた、何ら特別でない時間のひとかけらとなり、二人の未来を作っていくのだ。


 無印の時間が形作る、無印の僕らの今、そして未来。


 どこへ向かうか、どこまで至るかもわからぬまま、僕らはゆらゆらと、今日の無印の時間に、揺れ続けていくのだ。淡く、甘く、艶やかに…。
 
~~~


 すっかりご無沙汰してしまい、申し訳ありませんでした。

 私事(わたくしごと)と仕事の両立が困難な事態に陥ってしまったため、周回遅れに陥ってしまいました。おかげですっかり賞味期限切れになってしまった感がありますが、このまま放置しっぱなしというのも私自身気持ちが悪いので、今更感満載のまま、行かせていただきます。

 一部には、「今話でどこまでてりぃが壊れるか」を期待されていた方もいらっしゃるようなのですが…壊れませんでしたねー。期待はずれ?いやー、申し訳ないです。でも、壊れるのとは違うんですが…ゴロゴロと転げ回りたくなるような、ハートもきゅもきゅ系のお話だったと思います。

それは…折木さんが、自分を見つめ直したことがないからでしょぉ?


 …っカーーーーーー!!

 やってられねぇ!やってられねぇよ!何だよもぉ!こんなんじゃレビュー書く気失せるよ!(いやいや、それを言い訳にしちゃダメだろ…)


~~~


 アバンが、京アニにしては珍しいタイプの気がします。

 京アニのアバンは、今話の総括を象徴的に忍ばせたり、今話でこれから語るテーマを提示することが多いんです。私がよく言う、例のヤツですね、「京アニのアバンには全てが詰まっています」つーの。だけど今話のアバンは、「これから語られるエピソードに関わる、主人公の一主張の提示」と、「後で引用することになる印象的なパーツの配置」に留まっています。これはこれで、今話のその後にばっちり関連してくる良質なプロローグだと思いますが、いつもの「総括的な何か」ではないんですよ。

 では、普段の京アニがアバンで提示しているそれ~今話の総括的な何かやテーマの提示~は、今話では存在していないんでしょうか。いや、あるんですな。それは今話のAパート冒頭にあります。


 静かな古典部部室で、向かい合って座る二人。


 無言で本を読む、穏やかな時間。


 ふと思い出したように関谷純の葬式の件を尋ねる奉太郎。


 恐る恐る、顔を赤らめながら、叔父の墓参りに奉太郎を誘うえる。


 …ああもう、何つーか、これだけで悶えるねぇ。えっ、悶えねぇですか?悶えるでしょ、これは。この、ね、「一言ごとにお互いの距離感を測りつつ、たどたどしく会話を交わすさま」はねぇ、彼らの今、この時にしかない貴重な時間なんですよねぇ。

 この、他人ほど遠くないけれど、家族ほどは近くない…いやいや、ただの友達よりはずっと近いけれど、恋人まではまだ遠い、そういう絶妙な距離感。…奉太郎とえるが過ごしてきた時間の積み重ねが、この距離感を形作っているんですよね。

 Aパート冒頭で提示されているのは、まさしくこの距離感だと思うのです。もっと単純に「今話ではこの二人以外は出てきませんよー」ということでもいいんですが、あえてこのシーンをAパート冒頭に、印象に残るくらいにはそこそこ長い尺を取って配置したのは、やはりこれが今話にとって大事なパーツだからでしょう。

 ここには、構図的にもなかなか悶える仕掛けが施されています。本を読む二人が座っている様を真横から映しているんですが、これだと斜向かいに座っていることが見た目には判らず、まるで真正面から向き合っているかのような錯覚を覚えるんですね。実際の座っている距離よりも、ずっとずっと近いように見えるこの構図。これは、やっぱり、そういうことなんですよ。

 京都には鴨川という川があります。あそこには「鴨川の等間隔カップルの法則」というのがありまして。私が現役学生の時には普通に言われていたものですが、ネットで検索して見る限り、二十年以上経った今でも健在のようです。これは、「誰が指示したわけでもないし、川べりに印や目盛りが付いているわけでもないのに、鴨川の川べりに座るカップル群がお互いに等しい距離を置いて綺麗に整列する」という現象を指すんですが…一見奇妙に思えるこの現象は、カップルそれぞれの心境を考えると、そうなる理由が何となくわかるんですよね。人間って、「自分たちのフィールド」に踏みこまれまいとする心理が働くものですし、相手に対してもそういう気遣いをするものでしょ。だから、その時の混み具合に応じた「程々の距離」を、言い換えれば「これぐらいなら互いに侵害し合うことはないだろう」と思えるような距離を取って、それぞれ川べりに座っていくんです。だから、何とな~く等間隔に収まっていくんですね。

 奉太郎とえるにも、それと同じ心理が働いています。当たり前のように横に並んで座るような関係では無いし、真正面から向かい合って座るような間柄でもない。だから、ちょっと外して、斜向かいに座るんですな、彼らは。だけど、今の彼らの気持ちの上ではそういう整理がなされているのだとしても、傍から見れば「もっともっと近い距離にいるんじゃねぇの?」って思えるくらいには、この二人は仲が良いんじゃないかって思うんですよね。そのことが、あたかも向かい合って座っているかのように見えるこの構図によって示されているように思うのです。

 この、絶妙な距離感を、そして、今の二人の間にあるもの~斥力にせよ引力にせよ~を描こうというのが、この第十九話なのではないでしょうか。


~~~


 二人の距離感の描写としては、大きく二点、挙げておきたいと思います。


 一つは、「えるの心理的な近さ」。元々顔が異様に近くまで寄ることの多いえるですが、そっちではなくてですね、「妙な馴れ馴れしさ」の方です。

 えるって同級生にも敬語で話す、異常なくらいに丁寧な振る舞いが特徴の一つですよね。それが、今話の中では奉太郎に対して何度も、「えっ」と思うような行動を見せています。

(ジト目で折木を見ながら)
折木さん、真面目にやってます?


 …アレ?

 こんなキャラでしたっけ?少なくともこれまでのエピソードでは見たことないですよね?


(折木の肩を揺すりながら)
お~れ~き~さん!


 ……どちらさまでしたか?

 ツッコミに位置すること自体、えるの立ち位置としては非常に珍しいんですが、こんなことをするキャラでは無かったはずです。


え「ところで、キナ臭いのキナって何でしょうね?」
奉「知らん」(即答)
え「ん~~~~~~~!」


 一体誰だよアンタ!wwww

 いや、ラブリーなんだけどさ!wwこれは下手するとキャラ崩壊と見なされかねないんじゃないか?ww

 …キャラ崩壊ではないのでしょう。そのぐらい、えるが気を許して振る舞える位置に、今の奉太郎はいるということを表しているのだと思います。それはすごく近いんですよね、えるの一般的な振る舞いとは全く違うくらいに。いつの間にこんなところまで来たのか…いや、積み重ねっていうのはそういうもんでしょう。彼女が叔父=関谷純のことで感謝したり、いくつもの推理を通じて奉太郎の凄さを認めたり、一緒に文集を売り切るために頑張ったり…そういう過程を経て、奉太郎はいつの間にか、えるにとってごくごく近い位置に来ていたんです。



 描写されている距離感のもう一つは…それでもベッタリになりきれない、「えると奉太郎の遠さ」ですね。これはわかりやすく描かれていますから、どなたにもお分かりでしょう。

 何気なく奉太郎の横にやってきて、肩越しに奉太郎のメモを覗き込むえる。ふと顔の近さに気付いて同時に顔を赤らめ、ついっとそっぽを向く二人。とか。

 あり得ません!と詰め寄ったえるに落ち着けと言う奉太郎。近すぎる顔、後方から見るとまるで「えるが迫ってキスをしている」ように見えかねない態勢。互いの息がかかるような位置で、それぞれうごめく口と口。その「通常では無い状況」に気付き、慌てて謝りながら体を引くえる、バツが悪そうに頭をかく奉太郎。とか。

 …その近い距離を、「別に何でもないたまたまのもの」と思って流せるほど他人ではなく。かと言って、その近い距離を「別に何でもない当然の近さ」として受け入れられるほどベタベタでもなく。こんな距離では恥ずかしい、と思ってしまうほど、互いをそれぞれ意識しつつ、自分の気持ちにはそれぞれ向き合いきれていない、というね…。



 距離感以外にもう一つ、本編で徹底して描かれているものがあります。いや、むしろ、表面的にはこちらが本筋と言っていいでしょう。それは、奉太郎とえるの、ゲームとしての推論の過程です。

 「奉太郎とえるの」、なんですよね。勘のいい方は一回見てすぐに気付かれたでしょうが、この過程、決して奉太郎は一人で推論を進めていません。元々、気合を入れると言いつつも、「自分が如何に使い物にならないかを証明する」という目的の下にあった奉太郎は、序盤はかなりいい加減な物言いもしてるくらいで、真実に迫ろうという気がなかったんです。ですが、そこに入るえるのいくつものツッコミの数々に触れるうち、本人も、そしてえるも気付かぬうちに微妙に軌道修正を繰り返して、いつしか真っ当な推論へと導かれていってるんですよね。

 アニメとして放映された氷菓シリーズの範囲で、ですが。奉太郎が自分の力だけで推論を進めて真実にたどり着く、という描写は、注意深く避けられていると思います。常にそこには里志の、摩耶花の、そしてえるの影響が香っていて、それが奉太郎の推理をより高みへと押し上げているんです。つい最近では、第十七話「クドリャフカの順番」では、「力を合わせることで、普通は困難なところまでも到達することがある」という含みのある結末が提示されています。また逆に、「一人でやった推論の失敗」という描写も、第十一話「愚者のエンドロール」でなされたりしています。

 奉太郎は、一人きりだと彼自身が卑下するように「役立たず」なのかも知れません。でもそれは、全くの無能ということではないんでしょう。彼が力を出せるような、力を発揮させてくれる仲間がいる環境にあれば、非常に有能なんだと思います。そして、そのキーとして重要な位置の一つを占めているのがえるなんだと、今話は言っているんですね。

 今話の中で語られていることではないですが…奉太郎には推理のスキルが備わっていますが、真実に迫ろうという動機がありません。一方、えるには真実に肉薄せんという好奇心が溢れていますが、推理の技能はからきしです。この二人が、互いに無いものを補完して、普通では辿り着けないところまで辿り着いてしまうのが、このエピソードのコアの一つになっているわけですね。まさに奉太郎がエンディングで言うように「瓢箪から駒」ですが、それを当然と思わせてしまうような二人の、真に迫ったやり取りの描写が、実にすばらしいですね。推論を終えた直後の、「やり遂げた…」という感覚すら視聴者が共有してしまうあの間を、何と表現していいものか…。


~~~


思えば…遠くへ来たものです。


 なかなかなセリフです。彼女が言っているのは、奉太郎の今回の推論の話ですが…春に出会ってからこの距離感のところまできた、今の二人の事だと思っても、全然問題ないですもん。そしてまた、このシーンに割かれた「間」の良さは、一話きりの短編であることをしばし忘れるほどです。

 ある日の放課後にあった、この二人しか知らない、小一時間の出来事。

 そこで行われた「ゲーム」は、何のためだったでしょうか。

 奉太郎の推理の、役立たずぶりを示すため?

 えると奉太郎のとのやり取りが、推理を一定の高みに持ち上げることの証明?

 それとも、二人の何気ない時間が、二人の距離へと還元されていく様の再確認?

 視聴者が何を思おうと、答えはどこにもありません。このゲームの結末が、本当に正解を射止めていたのかどうか、微妙に判らない状態であるのと同様に。

 でも。二人はいつしか、思うのです。思えばあの時、自分は既に恋に落ちていたのかもしれないな、と。



 この時間こそが、人が後で「青春だった」と思うものなのですよね。さあ、その「心あたり」がある人は、ともに言葉にならない思いをもって、一しきり杯を傾けようではありませんか。彼らの、そして我が身の、無印の得難い時の数々に、乾杯。
楽しんで頂けましたらWEB拍手をお願いします。
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テーマ:氷菓 - ジャンル:アニメ・コミック

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2012/09/13(木) 22:24:40 | 妖精帝國 臣民コンソーシアム