Old Dancer's BLOG
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氷菓 第十一話「愚者のエンドロール」
 ……良かった。


 …クラス中からハブられて体調を崩した素人脚本家女学生は、実在しなかったんだね?


 いや、私は割とマヂで、最悪のシナリオとしてそういう展開が来るんじゃないかと危惧していたものですから。本郷が、クラス内の人間関係ゆえに追い込まれて体調を崩した、というような、リアルでは到底見たくない、目を背けたくなるような痛々しい展開。そんな痛いものを京アニさんの描写力で見せられたら私、悶死してしまいます。

 で、その代わりにやってきた今話の展開ですが……

 すんげぇ痛ぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!

 私、悶死しました。「やさしいだけじゃない。 痛い、だけでもない。」いやでもこれは、この痛さは……米澤穂信氏と京アニさんのタッグによる青春群像劇。一筋縄では行きませんね…脱帽です。
 
 いやぁ、今回もすごかったですねぇ。

 何がすごかったかって、「すごかったのは確かなのに、そのすごかった場所がなかなか特定できない」というのがすごかったです。

 全体としての流し方っつーか、運び方は、とてもさりげなく、淡々と進んでいくんですよね。奉太郎視点を基軸にして、古典部の他のメンバーとの個別の対話がなされて、それぞれに違う理由で奉太郎の推理へのダメ出しが出て。悩む奉太郎が最後に入須先輩と対峙する部分がクライマックス、その後、後日談が添えられて終わる…非常にオーソドックスな作りだと思うんですよ。なのに、見終わった後の感想が「すごい」。どこがすごいのか追っかけても、なかなか尻尾を掴ませてくれないんですよ。

 そこを無理やりに言語化するならば。「奉太郎の抱えている内部の問題にフォーカスしていく」という、一高校生個人の閉じた世界における微細なテーマを扱いながら、それでいてここまでの山場を形成して堂々と真正面から描き切っていること。ここは間違いなくすごかったと思います。これを正面突破できるスタジオやチームはなかなか無いですもん。誰も死んでないし、肉体的に傷ついてもいない。事件としてさえ、成り立っているのかどうか微妙な…そんな進行なんですよ?目を見張るような出来事は、今話では起こっていないんですから。


 まずは、その辺からほどいていってみましょうか。


~~~


 一連の長編の解決編となる今回。これまでにネタ振りされていたポイントは今話でほぼ、回収されていると思います。作中の自主製作映画の脚本の謎はもちろんですが、その他にもいくつか提示されていた、登場人物にまつわる諸々のことも、です。この長編エピソードの冒頭で、奉太郎と里志が話していた「才能のある人」の件が示唆していた、奉太郎のこの結末とか。えるがあんなに本郷の真意を気にしていたことの詳細とか。タロットカードの例えが暗示していた四人の特性とか。

 では、今回はその辺の「謎の解決」と「伏線の消化」がメインの話なのかと言うと、いやこれがなかなか。それらは今話を構成する重要なパーツではありますが、今話の本筋やテーマではない、と思います。今話のメインのテーマは、クライマックスの奉太郎のこの叫びに集約されていると思うんですよ。

誰でも自分を自覚すべきだと言ったあの言葉も嘘ですかっ?!


 とても甘美な言葉だったんですよね、あれ。奉太郎はその言葉に、わずかなりとも酔ってしまった。しかしその後、次第に明らかになっていく、自分の見落としと誤読。自分には技術がある?自分が特別?それらは全部、目的を達成するための入須先輩の嘘だった。自分には技術なんてないし、特別でもなかった…。

 …この認識の辛さ。これがキモですよね、青春時代に訪れがちな、自己への揺らぎ。ここに共感できなければ、今話はグッと来ないんじゃないかな。

 ここに落とし込んでいく流し方が、実に秀逸です。

 一つには、奉太郎が「一人」となるような、そういう構成が取られています。古典部の面々とそれぞれ話はしていますが、一堂に会することはなく、常に一人ずつです。しかもその内容は全て「奉太郎の推理に対する疑問の提示」と、それぞれのやり方での「奉太郎へのいたわり」だけなんですよね。「いたわり」がわかりにくければ「やさしさ」でもいいかな。映像そのものは面白かった、というフォローもそうですが、それぞれ一人になった時を見計らってまで、疑問をわざわざ提示する行為自体が奉太郎へ向かう優しさに他なりません。里志の言ってる言葉がその最たるものですよね。

奉太郎!本当にそう思っているのかい?
奉太郎が心底そう思えるなら、僕はそれでもいいよ。


 ここの、心配そうな里志の眼つきが何とも悶えますねぇ…。摩耶花もえるも、奉太郎を心配する顔つきのカットがそれぞれに用意されていますが…責めてるんじゃないんだよね、これは。

 そして、これは効くんですよ。責められてるよりも、ずっと。

 前回、第十話でも、奉太郎は一人にされていました。えるは二日酔いで不在、里志は補習で、摩耶花は部活でそれぞれ途中退場。でも、こちらは物理的な隔離なんです。今回は物理的というよりは、心理的に一人になるような仕掛けになっているわけです。

 もう一つ、これと対応する形で、奉太郎の表情が入須先輩との対峙に向けて変わっていく様が、実に細やかに描かれています。驚愕、不安、動揺、暗転、自問、自責…そういう「言葉」に変換できるような機微が、映像に現れているんですよ。ここに迫真の声優さんの演技が加わってるんですから、そりゃもうエライことになっとるわけですよ。

 演出上も、これらを補強するようなやり方が取られていたと思います。古典部の面々との対話のシーンは、奇を衒った様なアングルはあまり取られないんですが、でも時折ロングで「孤立」を強調するようなカットを挟めたり、心情に迫るために目の部分のアップにしたり。影の使い方がまた渋くてねぇ…。

 そうして、Bパートでのあの対峙ですもの。そりゃあ共感せずにはいられんですよ。

 灰色だと自認していた奉太郎。そして、君は特別だと言われたことに揺さぶりを受け、信じていいのだろうかと考え始めていた奉太郎。「自分も輝けるのかもしれない」という期待は、その輝きがまばゆい分だけ、裏切られた時のショックも大きいんですよね…。自分というものがまだ確立していない年頃ゆえの悩みなんですが…。

それを聞いて
(暗転)
安心しました。


 言葉とは裏腹の、「結局自分は灰色でしかない」と諦めてしまうようなこの演出よ…痛い、痛すぎるだろうこれは…。

 あの極上OPでも、奉太郎はついに一度も「自分自身が広げる波紋」には気づいていません。

 奉太郎は、まぶしく眼を前を流れていく青空にはすっかり目を奪われているのに、自分の足元に同じ輝きの波紋があんなに大きく広がったことには、全然気づいていないんですよ。

 自分は特別じゃない。でもそれは、彼が「波紋を広げる存在ではない」ということと同義ではないのですよね。いつか、別のエピソードで、彼がそれに気づける日が来るといいんですが…。


~~~


 今話のすごさ、そして痛さは、もう一つあると思います。

 後日譚の一部のような位置づけで描写される、入須先輩のパートがあるんですね。これがまた、さりげないんだけど実に痛々しい。

 奉太郎との対峙においては冷徹な女帝としてのイメージを全うしている入須ですが、このパートでチャットをしている彼女は、ちょっと違うんです。本郷らしきチャット相手が、自分の望みは自分の思い通りの脚本を書くことじゃなかった、「みんなで、できたってばんざいすること」だったと答えるのを見て、少し感情を動かされている様子を見せるんです。一人きりでパソコンに向かっていて、誰に対してもそんな素振りを「演じて見せる」必要なんてないのに。

 冷徹なわけじゃないんですよ、彼女。ちゃんと人間らしい温かいものを持ってる。女帝のカードにあるような「豊饒な心」を備えているんです。でも、それを奉太郎の前では見せてないってだけ。

 その後、今度は奉太郎の姉と思しき「あ・た・し♪」ともチャットをするんですが…入須はまだ嘘をついてるんだろう、本郷を守りたかったんじゃなくて、本郷を傷つけずに脚本を却下したかったんだろう、と言われて、これまでにないくらい動揺するんですね。「そこまで冷徹なんでしょ」と言われたのを我慢ならなかったみたいに。そして激しい勢いで打ち込む自分の立場の説明と反論に、「あ・た・し♪」からの返答はなく。今度はタヌキ寝入りではなく、拒絶のログアウトが…。

 入須も、揺れ動いているわけですよ。見た目の冷徹さとは違って、彼女だって年齢相応の「不確かな自己」の中で、悩んだり苦しんだりしているわけです。

 今話のサブタイトルにして、一連の長編の原作表題でもある「愚者のエンドロール」。ここでいう「愚者」は、一体誰のことなんでしょうか。

 奉太郎は、間違いなく痛々しい「愚者」として描かれていると思います。そしてまた、入須先輩だって「本来の自分」を偽って、演じている、痛々しい「愚者」と言えるんじゃないでしょうか。



 ラストシーンに、えると奉太郎の会話が置かれています。そこで、えるはこんなことに言うんですね。

それはしかたないですね。
人を刺すわけ、自分を刺した人を逃がすわけ、
それを本郷さんがどう描こうとしたのか、
とても気になりますが…。


 人の行動の真意、その本当のところというものは、誰にもわかりません。鴻巣が海藤を刺す理由も、海藤が鴻巣を許す理由も、本郷が自分の脚本に何を描こうとしたかも、入須が本当はどんな気持ちでこの茶番を組み立てたのかも…。

 わからない中でみんな、それぞれが置かれた立場の中で、技術も足りず特別でもない存在として、愚かしく何かをなそうとして足掻いている。それが人の住む世界というものなんじゃないでしょうか。誰もが愚者なんですよね、つまるところ。

 そして、もしそうであったとしても、人は「好奇心」と「行動への衝動」とを糧にして、前へ進むしかないのでしょう。愚者のカードに例えられていたえるがラストシーンで奉太郎と話すのは、そんな救いをもたらすためなんじゃないかと、そう思うんです。

 奉太郎が、そして多くの惑える愚者たちが、決して諦めのエンドロールで終わることなく、次のエピソードに向かっていける好奇心と衝動を抱けることを願いつつ…。
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テーマ:氷菓 - ジャンル:アニメ・コミック

コメント
この記事へのコメント
証拠何もはないんですが、ラストシーンのこのえるの台詞、私には「本郷が全てわかった上で許している」可能性を暗示しているように聞こえてちょっとぞくっとしました。
2012/07/12(木) 16:41:16 | URL | けいりん #-[ 編集]
モヤッとはしてたんですよねぇ
>けいりんさん

>「本郷が全てわかった上で許している」可能性

あーあー。悶絶しながらレビュー書いてて、何か言語化できないモノがここにあるよなぁとは思ってたんですよ。

指摘をいただいてスパッとわかり、スッキリしました。感謝~。
2012/07/14(土) 23:28:49 | URL | てりぃ #-[ 編集]
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実は…この答えが知りたくて先週の放送が始まる前に『愚者のエンドロール』の原作を読んでしまっていたキツネです。意思がよわいなぁ~… このミステリー映画のシナリオを完成させろと言う入須先輩からの命題に見事に答えたかと思えた矢崎、奉太郎は古典部の面々から、キ...
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2012/07/08(日) 09:35:16 | 日々“是”精進! ver.F
「愚者のエンドロール」 心からの言葉ではない …それを嘘を呼ぶのは君の自由よ…
2012/07/08(日) 10:34:45 | 日影補完計画(あ゛ぁやっちゃったなぁ… おい… な毎日w)
 奉太郎はタロットでいうと力。里志の例えが面白いですね。
2012/07/08(日) 10:35:13 | つれづれ
推理を完成させた奉太郎でしたが、その答えに古典部の面々は疑問を投げかけるのでした。奉太郎のおかげで、映画は無事に完成して好評を博しました。しかし、そんな奉太郎に
2012/07/08(日) 10:37:38 | 日々の記録
氷菓 第十一話「愚者のエンドロール」です。 アニメ版『氷菓』も、原作ですと2冊目
2012/07/08(日) 12:09:00 | 藍麦のああなんだかなぁ
『愚者のエンドロール』
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