三年生を見送る二年生の目線。心配させてはいけないと、三年生に隠れてする、来年の新勧ライブの練習。新学期から部に加わってくれるだろう、信頼できる仲間。でも…去り行く先輩たちを思うと禁じ得ない、辛い気持ち…。
そして、夕日を見る三年生の目線。太陽が沈む瞬間=高校生活を終える自分たちを見ているのに、全然寂しそうじゃない、その輝きに満ちた目は…。
そうだ。これで終わりじゃない。
あの日々は区切りを迎えたけれど、違う日々が待っているんだ。
これからの彼女らの日々に、そしてその未来に向かって高く飛ぶ彼女らに、乾杯。
【思い出を振り返って】
今一度。
今回の話が何故「番外編」なのか。先週のおさらいです。
二期「けいおん」シリーズが、「彼女らが『今』を生きているという、この時間の流れをこそ描き出す」ことをメインにしているんじゃないか、てなことを、前回は考察しています。精一杯の「今」を描き出すシリーズだからこそ、「振り返り」や「翌年の心配」につながるようなエピソードは本編からは除かれ、番外編に配置されているんだろうと、そういう解釈を取ったわけですね。
いやーもーこの一週間ドキドキもんでしたよ。おもいっきりミスリードしてるんじゃないか、二つめの番外編で全然「そうじゃない」のが来ちゃったら土下座して謝んないとダメなんじゃないかと。
結果は……大丈夫でしたね!いやー四十路・半徹のボケた頭でも、まだまだイケますな!ヨカッタヨカッタ!
とまあ、手前味噌なおさらいをしたところで、今週のアバンのところから入っていきますか。
〜〜〜
「京アニのアバンには、全てが詰まっています」。
…うう。このシリーズ中盤からずっと書き続けてきたこの言葉も、今回でしばらくのお別れかぁ…寂しいですなぁ…。
今回も、詰まってましたね、全部。最初に見た時はよくわかんなかったんですが、ちゃんと詰まってました。梓が新入生として入部してきた時の記念写真を、先輩たち四人が間もなく卒業する時点の梓が振り返って何かを思う、そういうシーンです。ポイントはいくつかあると思いますが…一個ずつさらっていきますか。
一つ。「かつての写真を振り返る」ということ。本編中では第21話「卒業アルバム!」で撮影した個人写真や、第3話「ドラマー!」で撮影したクラス写真が収録された卒業アルバムの見本が出てきます。作品的にはこれだけでも十分に「振り返り」の要素が強いですが、視聴者にとっては更に仕掛けが用意されているんですな。
それが二つ目、「一期のDVD/Blu-rayのジャケットを参照している」ということ。アバンでは5巻のジャケットが、本編後半で見える卒業アルバムの軽音部の紹介ページには2巻のジャケットが、そしてラストシーンでは7巻のジャケットが引用されています。また、ジャケット直接の引用ではなかったですが、Aパート冒頭、唯が親指にミカンを挿して「浮きます」とやってるのは、3巻のジャケットでやってるネタですね。このシーンでは律が「それは前にやった」とツッコミを入れていますが、アニメシリーズ本編でこのネタをやったことはありません。でも、アニメでは放映されていないどこかの日々で「そういうことがあった」という言及です。
これらによって、今回のエピソード全体が「卒業アルバム」という色彩を強く帯びるんですね。登場するキャラクターたちも卒業アルバムを見て日々の振り返りをするんですが、実際のアニメには登場しなかった日々を「ジャケット写真の撮影ウラ話」的な挿話を組み合わせることで、視聴者すらも「振り返り」「懐かしさ」へと取り込んでしまう、極上のギミックが仕込まれているわけです。
最後に三つめは…ああ、これはちょっと後に回しましょうか。先に、この「振り返り」という部分について少し語ってみましょう。
〜〜〜
前回の番外編も、「総集編」としての側面が僕らに懐かしさを覚えさせるような、そういう作りがされていましたけど…今回のはまた格別ですねぇ。というのも、前回はネタが「ビデオ」なんですよね。それは過去のデータではあるけれど、まだしも生き生きと動き回るキャラクターの姿が見られます。一方、今回はネタが「写真」なんですよ。瞬間を切り取ったスナップ、記念に撮ったポートレイト、そのいずれもが「静止」しています。
最終回の「卒業式!」までを、「今」を走る彼女らの姿として描き終えて。残る番外編二つは、順を追って彼女らの走ってきた軌跡をアーカイブ化していく、そういう過程なんです。一つめでは動画で、二つめは静止画で、徐々に、そして丁寧に、輝かしい時間を固化・定着させていってるんです。
百年経っても残っていくんだよ!
百年後って、記録媒体はどうなっているんでしょうね。例えば音声についてですが、ほんの数十年前に使われていた8ミリのオープンリールテープは、現在再生機器を持つ民家はほぼ無いでしょうし、つい十年くらい前までメインで使われていたカセットテープも、今各家庭で動いている機器が壊れたら終わりになるでしょう。既に主役の座から降りた感のあるMDは、この先、十年後にどうなっているのやら、わかったもんじゃありません。動画についても、VHSとベータの攻防、Hi-8からデジタルへの移行、DVDにBlu-rayへと頻繁に規格が変わる中で、一体何に保存しておくべきなのやら、正直困ることが多いわけで…。
でも。「写真」は残るんでしょうね。
だって、これは「現物」ですから。規格もなく、必要な再生機器もなく。アルバムを開けばそれだけで、その記録は直接目で見ることができますし、その当時に想いを馳せることができますから。そういうもの、皆さんも持ってますでしょ?百年残るかどうかはわからないけど、かつての自分の軌跡として、たまに見返すことのあるアルバムは、多くの人が持っていると思います。ああ、懐かしいなぁ、この時は確かアレがこうなって…みたいに、時間そのものを振り返ることもできて。
だから、「けいおん」のラストを締めくくる今回の話は、「写真」への定着を描くことで、この作品の印象をより長く残る、より確かな「記憶」として定着させる役割を担っている気がしますね。それは擬似的なものなのでしょうけど、確かに効果はあったと思います。「卒業へと向かっていく一年」をメインに描いてきたこのシリーズを、その前の二年間をも含めて俯瞰する、そういうところまで視聴者が軟着陸できるようになっているんですね。
「振り返り」について大体語り終わったところで、アバンの話に戻りましょう。もう一個、アバンで示されている「この回の要素」があると思います。
それは…。
……入部記念か…。
三つ目は「自分の入部した時のことを思い返す梓」という視点。ここでは、梓は自分の過去を振り返っているのですが、同時に思っていることがありますよね?それは多分、新たな部員の入部、もしくはそれに向けての新勧のことでしょう。軽音部を存続させるならば、部員集めは絶対に必要です。
振り返りではなく、これからのことを考えて。…そこに繋がるものが、アバンでもちゃんと示されていたと思うのですね。
【この先の未来を思って】
途中まで、梓が何をやろうとしているのかは、ほとんど見えないままにしてあります。放課後に何かをやろうとしていることだけが割と初めに示されて、憂と純も関わるらしいとわかるAパート終盤でも、まだ内容は伏せられていて。Bパートでさわちゃんのところに電話を掛けるところで、ようやくちょっと気づけるくらいのハンドリングがなされています。
これは、物語を紡ぐ上でのある種のじらしではあるのですが、別な効果も生んでいますよね。先行きが見えないということで、梓の不安も増幅されて見えますし、また視聴者を唯たち四人と同じ状況に置くことにも成功しています。知らず僕らは、「梓を残して高校を卒業し、同じ大学へ行く四人の仲間」の側に立たされているんです。
これは、このシリーズ中ではかなり珍しい立ち位置じゃないかしら。僕らの視点って、多くは梓側なんですよね。このアニメで描かれたのが高校の三年間ですから、僕らの視点はただでさえ「桜高」という舞台にほぼ固定しています。そこに来て、卒業に向かう一年間をシリーズ通してやってきたものだから、どうしても「この舞台に残る梓」にフォーカスしちゃうんですよね。いなくなっちゃう三年生を見送る、寂しい気持ち。そこにシンクロするのが、視聴者の多くのスタンスだったのではないでしょうか。
でも、このラストでは今一度、梓視点ではなく三年生側の視点に戻させています。その意図は色々と考えられるところでしょうが…私としては、「卒業」が「終わり」ではなく、「次の始まり」を意味するってことに、再度気付かせるためなんじゃないのかなと思うんですよね。
〜〜〜
今回のサブタイトルは…「訪問」です。何だよ、「振り返り」とも「先のこと」とも関係ないじゃんよ!どうすんだよレビューに書けないじゃんかよ!…パニくりかけましたよ、ええ。最後の最後なのにどうしよう!とね。
でも、じっくりと考えて…彼女らが「訪問」しているものを考えて、ちょっと胸に落ちるものがありました。今話でわかりやすいのはさわちゃんの自宅への「訪問」なんですが、もう一つ、彼女らが「訪問」しているものがあります。ラスト近くで、彼女らは…「来年の軽音部」を訪れているんですよね。
「訪問」というのは、自分たちのフィールドじゃないところに、一時的にお邪魔することです。先生のお宅は、当然「自分たちのフィールド」ではないですから、これは「訪問」としてわかりやすいでしょう。自分たちの居場所ではないからこそ、最後まで居付くこと無く、夕食の前に失礼して帰ってしまうことになるんですね。
そして、帰ってきた学校の部室は…これもまた、この時には彼女らのフィールドではないんですよ。梓たちが、次の年の新勧ライブのために、一生懸命練習をしている部室。これはもう、「今までの軽音部」ではないのよね。場所は一緒でも、その中を流れているものは違うもの。フィールドとしては別物です。だから、唯たちはこの部室には一歩も踏み込むこと無く、退散してるんです。彼女らが足を踏み入れてしまったら、そこは否応なしに「彼女らのフィールド」になりますから、それを描いていないんですね。それどころか、その練習の様子を見せることさえしていません。これは本当に、三年生が見られないもの=「来年の姿」として位置づけているからだと思うんですよ。四人はその「来年の軽音部」のフィールドの真ん前まで行き、玄関先で失礼して帰ってきた…そんなところかと思います。
これらの訪問には、象徴的な意味合いがありそうです。それは、「今までお世話になりました」なんじゃないかなと、私は思うんですよ。顧問の先生に、そして後輩のあずにゃんに。お世話になりました、ありがとう、と。卒業前の挨拶回りですよ。その理由は、直接はどこにも見つけられないんだけど、そう考えることでラスト近くの、学校の正面に立ってジャンプする四人の姿がしっくりと来る気がするんですよね。あれもまた、「三年間ありがとう!」なんじゃないのかなと思うとさ、どう、いい感じじゃない?
〜〜〜
三年生視点に立つことで。逆に引き立つもの、というのもあります。
それが、この記事のトップにも書いた、さわちゃんとあずにゃんの気持ちですね。
これらは、卒業する四人には直接は見えてないものです。さわちゃんは、やってきた四人を見ながら「静かになっちゃうんだなぁ」と思うのですが、この言葉が四人に直接届くことはありません。梓は、練習に際して「心配するでしょ、そういうところ見せちゃったら…」と純に言いますが、これもまた四人の耳には入りません。
だけど、僕らはこっそりと…これらの声を耳にしちゃうんですね。それも、四人の側に気持ちを置いたままで。
あったかで、切なくて。
だから、僕らは四人の代わりに思うわけですよ。「さわちゃん、ありがとう」と。そして、「あずにゃん、ありがとう」と。これもまた、伝わらない言葉なんですけどね。
仮に、四人の「訪問」が本当に挨拶回りの意味を持っていたとしても、それも直接は表現されないものです。じゃあ、そういう気持ちは伝わっていないのだろうか?いやいや、ある程度は伝わっているんじゃないですかね?でないと、あの寂しい気持ちを抱えながらのさわちゃんが、笑顔でいる理由がないじゃない?「新勧頑張れよ!」と言って去っていく先輩四人を見送った梓が笑顔になれる理由がないじゃない?
さわちゃんは、先生らしく、四人のこれからの未来を思って。
梓は、後輩らしく、エールを送られた来年の軽音部を思って。
それぞれに笑顔を返してくれるのです。いいえ、こちらこそありがとう、と言わんばかりに。
〜〜〜
この音……あずにゃんだ!
泣くかと思ったよ!どうしてこの子は、こう、なぁ?!音だけであずにゃんだ!ってわかるとか、どんだけ愛が深いんだろう!なぁ?!
そして、駆け上がっていく階段…もう視聴者の気持ち的には、これは最後の階段だよね、時系列的には違うんだけどさ!三年間上って来たこの階段を、後輩への愛に溢れて(最後に)駆け上がっていくこのシーンは、やっぱ万感なわけですよ!
そして、後輩への挨拶を終えて退散する四人は、階段を降りる時にあの亀を撫でるんですよね。上って行く亀、道の途中の亀を、上から撫でて…これはもうアレですよね、「まだ坂道の途中の梓」に対して、坂道を上り終えた四人が贈る「頑張れ」だよね!
その気持ちに答えるように、四人を見送る「来年の軽音部の音」が鳴ります。楽しそうに走っていく様子で、決して止まらない勢いで。
ああ。
この先も、この子らは大丈夫なんだな…。
巣立っていく四人も、残る梓も。
今一度。
時間が遡ります。
それは、いつかの写真撮影の光景。
卒業の前には一緒に飛べていた澪も、あの頃は飛び遅れていたんだなぁ…。
逆説的に、「今までの成長の過程」が思われます。
それと同時に、あの頃から彼女らは、真っ青な空に向かって大きく跳ねていたんだなぁ、とも。
「思い出を振り返って」。そして、「この先の未来を思って」。その二つを同時に示す、ちょっとアレだけど極上の一枚を以て、物語は完結しました。
この作品の制作に関わった、全ての方に感謝を込めて。どうもありがとうございました。いつか来る劇場版、楽しみに待たせていただきます。 ■関連記事〜
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