Old Dancer's BLOG
ここはてりぃが、趣味の共通する方々との得がたいつながりのために、自分の趣味に関係する諸々のことを、壊れながら書きつづるブログです。
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涼宮ハルヒの消失 IV
 チェックメイト。

 全てを理解した、と。この状況を読み切った、と。オレはそう思っていた。

 これが最後の一手だ、と。勝ち名乗りを上げられる決まり手なのだ、と。そう思っていた。だが。

 …詰んでいたのは、どうやら自分の方だったらしい。

 打つ手なし。ゲームセット。これで終わり、なのだろうか…。

 薄れゆく意識の中でそんなことをぼんやり考えていると…オレの目の前に、天使が降りてきた。ような気がした。
 
※ご注意
 劇場版「涼宮ハルヒの消失」のレビューは、複数の記事にわけてお送りいたします。一連のものとしてお読みいただくことを想定していますが、個々に独立してお読みいただいても大丈夫なよう、構成に気をつけたつもりです。

 この記事は、レビュー記事の四つ目・最後の記事です。一連の記事を全て順番にお読みいただく場合は、最初のレビュー記事からスタートして、記事の末尾にあるリンクから続きへと進んで下さい(リンクは、続き記事がアップ出来次第、順次ご用意します)。また、劇場版「涼宮ハルヒの消失」に限らず、TVシリーズのレビューや関連記事などを拾い読みしたい場合には、当ブログ内のハルヒ関連記事ポータルと位置付けておりますハルヒ記事リンク集が便利です。どうぞご活用下さい。



【決断の時~A Time to Know~】
そんな
非常識な
学園生活を
お前は
楽しいと
思わなかったのか?


 世界の改変者でもあり、自らも変わってしまった長門を前に、キョンは思索します。

 長門がここまでの変調を来した理由を思い。長門が感情を持つに至ったからであると悟り。長門がこうまで煮詰まってしまった原因の一端は、万能の長門に頼りきりだった自分にもあると考え。長門が自分を変えずに残した訳が、「改変後のいわゆる普通の世界と、これまでの非常識な世界との選択を、自分に託したからだ」と知り。

 そして、更なる自問。キョンなりの、これまで向き合おうとせずにいた、彼自身の意志への真摯なる問い。

 …いやー、杉田さん、最高ですなぁ。無論、憂鬱Iの頃から今に至るまでハルヒシリーズ全編を通じて、キョンの語りが最高だと思わなかったことは皆無に等しいんですけれども、それにしてもこのシーンの長ゼリの良さは、もう段違いと言っていいでしょう!かつて、うる星やつら2「ビューティフル・ドリーマー」にどっぷりハマりきっていた頃の私は、友引全史第一巻「週末を越えて」序説第三章より抜粋されたくだりを、完全に澱み無く言えるほどにバッチリ丸暗記したものでしたが、今回のこれもまた、メディアが発売されたら全部丸暗記したくなるような、そんな気持ちですよ。

 語りの良さだけでなく、ここの映像表現がまたたまりませんや、ねぇ?窓に映った自分の姿が、当然のように動き出して…。ここって、消失世界のハルヒ&古泉と話をした喫茶店のシーンを思い出させるんですよ。あのシーン、ハルヒと古泉がアップになる時には「窓の向こうの彼ら」はよく見えないアングルになってるのが多いのに、キョンがアップになる時にはほぼ確実に「窓の向こう側のキョン」が同時によく見えるアングルになってるんですよね。仕込みだと思うんですよ、これ。上手く言えないんだけど…既にね、ハルヒたちには「こっち」しか残っておらず、キョンのみに「こっちとあっち」がわかっている、と。世界の選択権が、キョンのみに委ねられていることの暗喩に思えたんですよね。

 だから、「窓の向こうとこちら」とが対峙するシーンが始まった時には、「キター!」てね!「キター!」思いましたよ!窓の向こうは、元の世界への思いを代表する自分、元の世界での自分の真意を、内面を問う自分。対するこちら側は、今は改変後の世界にいる実際の自分、これまでは表層をのらりくらりと過ごしながら生きてきて、でも今はこの世界の是非を、自らの本心を問われる自分。問う自分、そして、問われる自分。ガラス一枚、意識一枚隔てた自分の中で行われる、真に迫ったその対峙。一方的に詰め寄っていた「問う自分」に…意志を問いながら踏みつけにしてくる自分に、渾身の力であらがい叫ぶ「問われる自分」が、もう!

…当たり前だ。

…楽しかったに…決まってるじゃねぇか!

…わかりきったことを…聞いてくるなああああ!!


 いやーーー、素晴らしい!!このシーンのためだけにこれまで一連のハルヒシリーズが編まれているのではないかと、激しく錯覚するほどですよ!!

 自問自答のさ中にキョンの脳内では、延々と続く自動改札のシーンが見えていました。キョンはその改札機を前に立ち止まり、そのキョンの袖をあの改変後の長門が引いて止めていて…背後には、美しく本物のようにかたどられた、ハルヒの、みくるの、古泉の雪像が…。周りに降りしきる雪の結晶、無言で、しかし明快な意志を見せてキョンを止める有希…。

 これは、有希(雪)の世界なんです。

 有希の意志で、本物と同じような精緻さで、美しく作られた世界です。だけど、それがどんなに美しくても、本物では、無い。オレは、実は自分自身も楽しいと思っていた、あの本物の世界がいい。

 他ならぬ有希から託されたあのしおり=元の世界への片道切符を受け取り、キョンは改札を抜けます。背後に有希を残したままキョンは歩き続け、ハルヒの前へと進んで。そこのモノローグ中では一言もハルヒについて触れていないのに、イメージシーンでは彼の心からの願いである「ハルヒの前へ」と…。


~~~


 ウソつき。


 ここにきて、キョンはまだ、やっぱり自分にウソをついています。


 「オレは、ハルヒに会いたかった」と、キョンも認めることはしていました。暗い夜道にあって、自分の周りだけ明るく照らされた、街灯の下で。


 「楽しかったに決まってるじゃねぇか」と、今は遠い日常への明快な肯定の気持ちも、認めてはいました。キョン自身の中で行われた、真に迫った問答の中で。


 それなのに…その問答が、あれだけこちらの心に迫った問答が、微妙にまだ「本当の芯をとらえていない感じ」がしてしまいます。


 「元のままの、あのハルヒと過ごしたいんだ」と言わなければ、真芯をとらえたことにはならないんじゃないの?


 「ハルヒに会いたかった」というキョンの願いは、光陽園学院の前で再会できた時に、一旦はちゃんと叶っているんですよ。でも、キョンはそれだけでは良しとしませんでした。僕らの知るあのハルヒと違って実に不機嫌そうだった光陽園学院のハルヒは、キョンの話を聞くうちに様子が変わり、覚えのあるあのハルヒの顔になりました。なのに、キョンはそれでも良しとはしませんでした。更にそのハルヒはSOS団のメンバーを集めて、「改変後の世界」でもSOS団を作ろうとまでしたんです。だけど、キョンはそれでもやっぱり良しとはしなかった…。

 キョンは、あくまでも、元のままの世界を、元のままのハルヒを望んだんですよね。

 作られた有希の世界ではなく、ありのままの世界を。よく似た部分を残した世界ではなく、本物の世界を。その理由に、「非常識なことがてんこ盛りの、あの元の世界が楽しかったから」という主旨のことをキョンは言っていますが、それだけでは自身の問答を表す一連のシーンが、あのカットで終わる理由がありません。最後の最後で、キョンの後ろの座席に立つ「ありのままのハルヒ」の前まで、キョンが歩んでいく理由がないんです。


 ありのままのハルヒ。彼女と、会いたい。…何故そこまで言えなかったかなぁ…。感動的な自問自答ではありましたが、「これでもう本当に十分」とまではいかないんですよね。それは、彼らの物語がまだ先に続くことの裏返し、でもありますが…。


~~~


 ハルヒに対する自分の思いだけでなく、もう一つ、キョンが大きく誤魔化していることがあります。

 長門は疲れてしまったのだ、と。そうキョンは言いました。感情を爆発させるべきだったのだ、と。鬱屈が溜まって、そのあまりに長門は世界を変えちまおうとするくらい、おかしくなってしまった、と。

 でも…それだけじゃ、ないよね?長門が、世界を変えようと思った理由は。

 例えば、「ライブアライブ」。自らの「私はここにいる!」を、恐らくは初めて世界から受け入れてもらったハルヒ。キョンとの「再びのボーイ・ミーツ・ガール」を経て、キョンからの理解をもう一段得ることのできたハルヒ。そのハルヒの横で、完璧なギターを弾いて見せ、全てを見届けながら、何故だか目を伏せていた、長門。

 例えば、「射手座の日」。恐らくは初めて自らの意志による行動を表明した長門。「コンピ研との勝負に勝ちたい」と言明し、SOS団のそれなりの窮地を救って見せた長門。しかし、その後のコンピ研との対話の中で、キョンから「たまにはコンピ研に遊びに行ってもいい(=SOS団部室に必ずしも居続けなくてもいい)」と言われ、何故だか目を伏せた長門。

 例えば、「サムデイ イン ザ レイン」。キョンのいない部室に一人、延々と待ち続ける長門。ハルヒたちがどこにいるか知っているのに、キョンにはそれを告げず、キョンと二人きりで部屋にいる時間をこそ望んだ長門。寝入ってしまったキョンの肩に、「風邪、引くから」とカーディガンをかけた長門。しかし、その後に更にかぶせられたハルヒのカーディガンによって、覆い隠されてしまった、長門の思い…。


 長門は、キョンが、好きなんだろ?


 私はここにいる、ということを、キョンにわかってほしくて。長門のことが必要だと、キョンに言ってほしくて。一緒にただ同じ部屋にいるだけでもよくて、でも、自分の思いを他の人に覆い隠されたりはしてもらいたくなくて…。


 何という純な、「ただの女の子」の気持ちだろうかと。


何の力もない…ただの…女の子よ。



 例えすごい力を持っていたって、その中にあるのは「ただの女の子」なんじゃないのか?


 情報統合思念体の一端末に過ぎないという彼女本来の存在理由と、その中にあって次第に膨れ続ける「ただの女の子」としての純な思いと。長門は、長門有希は、そのギャップに耐えられなくなったんじゃないのか?本来はなかった感情に目覚めて、途方もないことが色々あって、それで疲れてしまった?いーーーーやーーーー、それだけじゃ足りん!!全く足りん!!「本来はロボットのような振る舞いを要求されている自分」と「人間として男の子を好きになっていく自分」とのあまりの差異に、苦しんでいたってことなんだろうがよ!!


 キョンも、恐らくもうちょっとはわかっているんだろうと思います。3年前の長門のマンションで、長門に対して「長門、その…待つのか?部室で…」と聞いたぐらいなんですから。これは、単に彼女の待つことの辛さを慮っているだけじゃあ、ないよね?3年後に自分が起こす異常動作のその時まで長門が待ち続けることの途方も無い重さやら、その異常動作の引き金になるであろう「SOS団の日々」の矛盾やら、それらを全部包含したような辛く割り切れぬ表情で、キョンは長門の「待っている」を受け止めているんだから。

 でも…キョンはもう一歩踏み込んで、もう一度思い出すべきだったんですよ。長門が世界の改変者である、とわかった時に、何故長門は緊急脱出プログラムの起動条件に時間制限など設けたのか、ということを…。



【「欠」意…或いは「欠」けない思い】
 長門の思いを読み違えないようにするには…やはりあの「時間制限のある起動条件」を書き残したしおりに気を配るべきだと思います。何故なら、おかしくなっていたとは言え、明確な「長門自身の意志」の下で遺した重要なアイテムなのですから。

 キョンが、長門の残してくれた「ヒント」なのだと受け止めた、あのしおり。ええ、それは確かに「ヒント」だったかも知れませんが…それにしては、内容があまりにも難解ですよね。パッと見、あれで「何をすべきか」が判るようには思えません。しかも、期限付きとあっちゃあ、それを正しく活用するのは、相当に難しいわけですよ。

 どうしてそうなったんでしょうかねぇ。キョンは「これが精一杯だったのか?」という方向の解釈をしたようでしたが、そもそもヒントとして活用して欲しかったのやら、ヒントにして欲しくなかったのやら…そう、例えばこのようには考えられないでしょうか。キョンがそうであったように、長門の中でも二つの意志の葛藤があったのではないか、と。


~~~


 このままの、世界では、耐えられない。


 世界を変えてしまわなければ…さもなくば、私が壊れる。


 …「異常な動作」を起こしていた長門ですから、上記のように明確に言語化できる状況だったかはわかりませんが…仮に「誰にでもわかるような言葉に換言するとしたら」、こんなところではないかなと思います。

 しかし。上記のように思った人物が、もし世界を変える手段を持っていたなら…そうですね、それが私なら、もう徹底的に「自分の望むように」と世界を作り変え、決して元には戻らないように工夫を凝らすはずです。もちろん、誰に対してもヒントになりうるものなんて遺しませんし、ましてや脱出プログラムなんて作りません、当たり前ですw だって、私は本当に世界を変えたいんだもの。

 …矛盾するんですよね。世界を変えた張本人が、あんな「ヒント」や「抜け道」をあえて遺す、なんてのは。つまりは、「変えたい世界、でもその中にも、実は変えたくないものがある」ってことになりはしませんか?ねぇ?




 世界を変えたままで、いいはずがない。


 いったんは変わる世界であっても、何とか元に戻さなければ…。


 …「異常な動作」の渦中にあった長門ですから、上記のように意志を表せる状態であったかは甚だ疑わしいところですが…それでも、何とかヒントになるものを遺そうとし、あまつさえ「緊急脱出プログラム」まで用意してくれたことを考えると、そのような思考に近いものを持っていたのではないかと想像できます。

 でも。異常動作の奔流が如何に激しいものだったとしても、ちょっとおかしくないですか。見つけるのに相当骨が折れる上、何をすべきか今一つ判然としないヒント、そこに示された「集めるのが非常に困難な鍵」、更にそれらの条件をクリアしてさえ二日以内でないと起動しないという期限付きで、しかも効果の保障できないプログラム…。自己の内部から生じる妨害のために中途半端になったというよりは、むしろゴテゴテとあえて追加されたような「異常に高いハードルの数々」が、どうしたって気になります。「異常動作の中ではこれが精一杯」って理由を以て納得するには、変すぎるんですよ。同じ長門が3年前には「これを打ち込めば大丈夫」みたいなワクチンを作れるのに、何だってこんなに回りくどくい方法しか用意できなかったのか…まるで、「出来れば見つけて欲しくない、辿り着いて欲しくない」って、言ってるみたいじゃないですか?

 …こちらの立場に立ったところで、やはり矛盾はあるんです。異常動作への対抗手段を講じたというよりは、「どうしていいのやら本当にわからなかった」ように思えるレベルの、ものすごい違和感…。




 迷ってたんじゃないですか、長門は。




 世界を変えなきゃならない、いや変えちゃいけない、でも変えずにはいられない、しかし戻す手段を講じなきゃいけない、ああ、自分自身ではどうしても選べない…だから、「何か」に対してその選択を託そうとしたのでしょう。何か…そうですね、偶然や、運命や、微少な確率や、そうした言葉でも表すことが可能な、理屈だけでは割り切れぬ類の「何か」に。

 似てる、と思ったんですよ。恋を占う少女が花びらを散らしながら、「愛してる、愛してない…」と思いを綴る様に。答えなんかとっくに出てるんですよ、「愛してる」なんだよね、そうして欲しいんだよね、その少女は。だけど、相手のことを強く思うほど、独りよがりな結論には出来なくて…風に吹かれる草原に、或いは一人きりの眠れぬ夜に、悩んだ末の自分の思いの行方を偶然に委ねてみるんです。「もし、この占いでダメだと出たら諦めよう」なんて、悲しいことも考えながら…。

 長門もまた、「耐えられない、世界を変えよう」という意図は明白だったと思うんです。だけど、キョンを強く思うほど、自分の望みのままには出来なくて…15000回のループの果てに、或いは一人で待ち続けた日々の終わりに、おかしくなりそうな自分の思いの行方を運命に委ねたんじゃないでしょうか。「もし、この過酷な条件下でも、彼が全てを乗り越えて元の世界を望んだら諦めよう」なんて、悲しいことも考えながら…。

 長門は、迷いの証をしおりに込めて、託したのです。彼女が割り切れぬ感情を抱く相手であり、彼女が一部なりとも変えてしまうことを良しとしなかった唯一の対象、キョンという存在を通して。


~~~


 長門が抱いていたであろう「迷い」。その証の一つが、あのしおりです。でも、長門が迷っていたのだと考えると、他にも多くの「迷いの証左」が現れてくるのに気付きます。


 このままじゃ壊れちゃう。そうならないように、世界を変えるんだ。自分が壊れるような要素を、一切排除して…。

 そう思うなら、自分さえ変えてしまうなら、その一番の原因となる対象=キョンのことだって、変えるべきだったんじゃないでしょうか?

 長門がイレギュラーな反応~感情の起伏を見せる時、そこには常にキョンの存在があったはずです。そのことに、あの長門が気付いていないはずはない。でも、変えていないんですね。記憶はおろか、容姿も性格も思いも含め、およそ「キョン」という一個人に属するパラメータは、全くいじられていません。ちょっとぐらいいじったって良さそうなものなのに。クラス一つ丸ごとを北高からどっかへ動かしちゃうような大技も繰り出している長門なのに…。

 これは、「変えていない」んじゃないでしょう。「とても変えられなかった」んですよ、きっと。

 長門が好きな、自分が壊れるんじゃないかと思うほど好きな、キョンのことを…長門は、とてもじゃないけど「変えられなかった」んです。世界を変えてしまうこと、恐らくは「キョンの意志に背く行為であろうこと」であるその改変を、とうとうやってしまうほど思いつめていたのに…その中心的な要因とも言えるキョンには、最後まで触れられなかった。その中に潜む「ハルヒへの思い」まで含めて、一切合切。



 このままじゃ壊れちゃう。そうならないように、世界を変えるんだ。自分が壊れるような要素を、一切排除して…。

 そう思うなら、でもその一番の原因となる対象=キョンには触れられないのなら、自分の中の方に潜む大きな要素=キョンへの思いの方を、せめて変えるべきだったんじゃないでしょうか?

 長門の中にあるキョンへの思いが無ければ、長門がイレギュラーな反応をすることもないはずです。そのことに、長門が気付いていないはずはない。でも、変えていないんですね。記憶はおろか、容姿も性格も含め、およそ「長門」という一個人に属するパラメータはほとんどがいじられているのに、「キョンを好きだという思い」に関しては、全くいじられていません。あそこまで大きく変えるなら、ここだって無くしてしまっても良かったろうに。自分の持つ、情報統合思念体としての大きな能力さえすっぱりと無くしてしまっている長門なのに…。

 これは、「変えていない」んじゃないでしょう。「とても変えられなかった」んですよ、きっと。

 長門を動かす、自分の全てに背いてでも行動せずにはいられないほど強い、キョンへの思いを…長門は、とてもじゃないけど「変えられなかった」んです。自分を変えてしまうこと、恐らくは「己の存在意義そのものを投げ出す行為であろうこと」であるそれを、実際にやってしまうほど思いつめていたのに…その元凶とも言えるキョンへの思いには、触れられなかった。それを強める大きなきっかけの一つ、「図書館でのこと」まで含めて、重要な部分は残したままに…。一方で、キョンが「無い方がいい」と言っていた眼鏡をあえて復活させたりしているところに、長門が抱える矛盾した思いが嗅ぎ取れて、悶絶ものです…。



 悲劇、なんだと思います。それも、ごく普通の恋する女の子が直面するような、恋の苦しみの延長線上の。「こんなにも好きな相手なのに、その人は自分を見てくれそうにない、でもその人の気持ちは変えられないし、自分の中にある好きな気持ちも葬り去ることが出来ない」なんて。どうしようもない矛盾です。だから、異常動作を起こした、世界を変えようとした。変えられない部分は残したままに、その他の「自分を壊しかねない要素」をなるべく排除して。矛盾に迷いつつ、世界を元に戻すための仕掛けも一方で用意しながら、世界が元に戻らないような仕掛けも同時に施して。


 「世界が元に戻らないような仕掛け」?


 それが、朝倉涼子です。


~~~


長門さんを傷つけることは許さない。



 全くの想定外!!


 原作を読まずに鑑賞した今回の消失において、でも「長門がハルヒのいない世界を作るらしい」という大筋ぐらいは何となくわかっていた私の、最大級の衝撃がこの「急襲する朝倉」でした!!


 マヂでビビった、なんてレベルのもんじゃねぇ!!


 ええ?!とか、ああ?!とか、うそっ?!て声が洩れ出そうになるほどの、完全に虚を突かれた展開!!


 そして、凄惨なシーンを目の当たりにしながらも、頭の中でパシパシッとパーツがはまるんですよ!ああ、「復活した朝倉涼子」は、迷いに迷った長門が用意した、「世界が元に戻らないような仕掛け」だったんだ、って!!



 長門自身を脅かす者を、排除するために復活させた者。改変後には記憶も力も失う自分自身を守る者、ひいては「改変後の世界を守る者」。

 そうです、長門が自分自身をあのように改変するならば、「世界を元に戻そう」という動きに対しては全く無力になってしまうんです。だから、その役目を、朝倉に託そうとした、と。これは、「緊急脱出プログラム」まで残しながらも、長門が「変えた世界を元に戻したくない」という気持ちを、強く強く抱いていたことの現われだと思うんですよね。

 でも、長門はまさかキョンが「排除の対象になる」というところまでは思い至らなかったのではないでしょうか?…いや、違うな。普通に考えれば、「元の世界に戻そう」と一番強く願うのがキョンになるだろうことは、長門ならわかるはずです。そのことを冷静に考慮できないほど、長門は変調をきたしていたのでしょう…。

 自分ではとても変えられなかった、「キョンその人」と、「自分がキョンを思う気持ち」と。その、どうしようもない矛盾に苦しんだ末に、自分がやってしまった行為の先が、「キョンその人」に向かう害意となるなんて…。


 矛盾の代償。


 悲劇の生んだ悲劇。


 何という「血」末か!!


あなたがそう望んだんじゃない~。
でしょお?



 怖ぇ!怖ぇよ朝倉さん!その恐ろしげなナイフで血しぶきを振りまきながら、美しくくるくると舞わないでくれええええええええ!!



ゆっくり味わうがいいわ。
それがあんたの感じる人生で最後の感覚だから。



 怖ぇ!怖ぇよ朝倉さん!その底抜けの笑顔と楽しげな明るい声で、そんなおっかねぇこと言わないでくれええええええええ!!



 スローモーションで迫る最後の一閃!!



 万時窮す!!



 もうダメだ!!






ぱしっ。






 あ?





何故…あなたは…どうして…






 長門だ。





 うはあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!





 ああ!!ああああああ!!こんなにも苦しんだ矛盾の果てに「それでも」!!それでも「キョンを救いたい」という長門の気持ちは!!



 「変えられなかった」んだ!!



 あぼびぶべばぼぐがらびうぇを、ぬわああああああああああああああああああああああああああああっ!!!





 冷静に考えたら、「この長門は誰なのか」には、この映像中では答えが出ないんですよ!その場に現れた小さい方のみくるやもう一人のキョンと同じく、未来の時間平面からやってきた、「正常動作している長門」かもしれん、つーか、そっちの方が可能性が高いような気はするんだけど!でも!


 オレの目には、目の前で震えていた改変後の長門が、それを止めたように見えたんですよ!


 記憶をなくし!


 力をなくし!


 完全に無力な、目の前の惨状にただ震えるだけの、普通の女の子であったはずの長門が!


 朝倉の凶刃を、止めた、と!


 絶対に開かぬようにと、厳重に自分自身を封印したはずなのに、その封印を外してしまうほどの強い願いを、長門は自分自身の中に残していたのではないかと!!


 …いやー、改めて考えてみると、それだと「封印を解いた長門が世界を元に戻せるんじゃね?」みたいなところもあるんで、やはりあれは「未来から来た別の長門」が正解っぽいんですがね。でも!こと「燃える」ことだけに特化するならば!上記のは燃えますよ、間違いなく!!

 それに。

 あの長門が「どちらの長門であろうとも」。やはり「長門」があの場面を救ったことには、意味があるのだと思います。大きな矛盾と惨劇も生んだけれども、やはり「長門」が最後に選択するのは「キョンを救いたい」という願いだった、ってことなんですよね。



 窮地を免れたキョン。しかし、その体からは流れ出続ける血液…。次第に遠のく意識、誰かの声…。




【結晶の生まれ降る夜に】
 目覚めると。


 見知らぬ病室で。リンゴを剥き続ける、古泉。


 場面はガラッと変わり、キョンが体験してきたことは既に「無かったこと」になっていましたね。


 一体どちらの世界にいるのか、どうしてこうなったのか。明確な説明は無いのですが、古泉の様子と話しぶりからして、どうやら改変前の世界からつながる日々にいるらしきこと、この世界の中では「一応の辻褄」が取れた形で時間が進行していることがわかります。

 幻の女に突き落とされ=もういないはずの朝倉に刺され、生死の境を彷徨ったキョン。

 救急車を呼んで=朝倉の凶刃を止めて、キョンの窮地を救った長門。

 その辺りのリンケージが意識できれば、後は特に意識せずとも何とかついて行けそうです。最終的に世界を元に戻したのが誰なのか、あの場面に助けに入ってきた未来のキョンたちは一体どんな過程を経てやってきたのか、色々と疑問は尽きないところですが。

 平和が戻ってきた世界の、本来あるべきSOS団のメンツとの再会。そこにいくつか仕掛けられた小ネタから触れてみましょうか。


~~~


 リンゴ。


 お見舞いの品、回復を願う気持ちの象徴。それはいいんです。


 でも…何でこんなに大量に剥いているんでしょうか?(笑)


 変ですよねぇ。あんなに大量に剥いたって、キョン一人で食えるわけも無い。そもそも、キョンが目覚めた時に古泉が剥いていたリンゴって、「二個目」ですよ?キョンが目覚めるのが判っていた風でもないし、目覚めなかったら一体どうするつもりだったんですかねぇ?集まったSOS団のみんなで食うの?いやいや、それにしたって、一個剥けば十分じゃないんですか?


 皮を剥かれて丸裸になったリンゴが、3個。


 その上に、リンゴのウサギさんを一匹、乗せて……。


 あ。


 SOS団の3人と、団長・ハルヒじゃないの?


 消失のレビューIIIで書いた通り、消失世界での出来事によって、それぞれに「隠れているそれぞれの思い」が表に見えてきてしまった、SOS団の3人=長門・みくる・古泉が「丸裸に剥かれたリンゴ3個」で。


 彼らの上に立つ団長にして、必ずしもキョンへの思いが「丸裸」にはなっていないヒロイン・ハルヒが、皮の残してある可愛らしいウサギさんとして3人の上に乗って。


 揃ってキョンを見舞う気持ちを持っていることを、見舞いのリンゴに象徴させて。


 なるほどそうか!これは美しい!…と思ったら、目覚めたハルヒの話を聞きながら古泉、まだ次のリンゴを剥き続けていますwwwちょwwwホントに何個剥くつもりだwwww

 ところで、さりげなく古泉の口から出た「あなたをうらやましいと思っているだけですよ」なんてセリフには、これまでと全然違う重みが感じられますが…これは、別な話で、またの機会にでも語られる時が来るのでしょう…。





 その古泉から教えられて、横の床に寝ているハルヒに気付くキョン。「顔にいたずら書き」とか言いながらも、その代わりにハルヒの髪を、唇を、まつげを、愛おしげに撫ぜる様が、艶かしくも美しいです。

 何て言うんでしょうか…「愛でる」ってのが自分の中では比較的近い気もするんですけど…でも、言葉にはしっくりと当てはまらない、微妙な思いの襞がそこには感じられるんですよね。ハルヒが、そこにいる。確かに、いる。その愛おしい存在を、自分の指で、目で、一つ一つ確かめるように触れていって……って、何だかすごくエロいことを書いている気がしてきた…(汗)。

 すごく良く似たシーンが、ワンパターンで申し訳ないんですが、あの「ビューティフルドリーマー」のラスト近辺にも出てきます。夢の世界からようやく脱出した諸星あたるが、傍に寝ているラムの顔に手を伸ばそうとして…でもそれを途中でやめて、ただ眺めるだけにするんです。これまた、この微妙な心の揺れがたまんないんですよ。

 キョンはあたると違って、ハルヒに触れています。より思いが強いから?…いや、そうではないでしょうね。あたるの方は、「触れず、あるがままに」って気持ちもあるでしょうし、そもそも彼は夢の世界に放り込まれてからも、しばらくはラムと一緒にそれなりの日々を過ごしていましたから。でも、キョンの方は…たった3日あまりとは言え、「ハルヒが消え失せたのではないか」という恐怖とともに、離ればなれの日々を送ってきたのですよね。そらぁ、再会の感慨もひとしおでしょう。


 「ようやく…帰ってきた…」


 多分そんなことを思いながら、求めてやまなかった対象を、確かめていくキョン。古泉が傍にいなかったら、「ただいま」ぐらいは口にしていたんじゃないでしょうか?


 ハルヒが起き出してからは、ロマンティックなものとは無縁のようなドタバタなやり取りが続いていきますが…「寝袋にくるまって蓑虫のようなハルヒ」は、毎朝描写されたあの「毛布にくるまって蓑虫のようなキョン」を連想させます。何だ、結局この二人、似たもの同士、ってことなんじゃないか。

 片や自分がやってるとも知らずに閉鎖空間へ放り込まれたり、片や自分が引き金だとは夢にも思わぬ世界改変に巻き込まれたり。それに付き合わされて毎回迷惑を被るのは…ああ、これは「丸裸」の3人が可哀想だわ。ねぇ。





 さて。小ネタはこのぐらいにしましょうか。

 キョンが思っていたように、一応の辻褄は合っていました。だけど、それは真実ではないんですよね。この世界では誰もそう思ってはいないようですが、キョンは「本当に起きたことが何か」を知っています。

 そしてもう一人。全ての経過を、完全に記憶している者が…。


~~~


 キョンがようやく落ち着いての夜、今回の色々を振り返る彼の元に、日中は姿を見せなかった長門が現れます。

すべての責任はわたしにある。


 …なんつーか…いたたまれない、ですよね。長門のような立場に立って、自分がそう謝罪しなければならん時とか、想像してみるといいですよ。自分ではどうにもならん感情の暴走に任せて、他ならぬ「自分の思い人」にものすごい迷惑をかけて、落ち着いて冷静になってから自分の過ちを思い、一人誤りに行く、だなんて……まともに言葉なんか、出てきませんて、きっと。

 これが長門でなかったのなら、きっとボロボロに泣きながら少女が「ごめんなさい、ごめんなさい」だけを繰り返すような、そういうシーンのはずです。あの長門だから、こんなに淡々とした口調の語りで済んでいるわけで。でも、長門の中に「ただの女の子」の部分がちゃんと息づいていることを知ってしまったら、このあまりのギャップに、返って身悶えしませんか?

 他にも、長門のセリフの中には、彼女の心の底を映すような部分がちらほらと。

仮に私が事前にそれを伝えていても、
異常動作した私はあなたから該当する記憶を
消去した上で世界を変化させていただろう。
また、そうしなかったという保証はない。


 この、4行目。ちょっと変でしょ?あえて入れる意味が、パッと見、よくわからない、というか。無くてもいいんですよ、普通なら。ダメ押しなの?って感じの言葉です。

 だけど…先に述べてきたように、「長門はキョンに対して、その一切を変えることが『できなかった』のだ」という解釈の元で上記のセリフを飲み込むと…すっと入ってくるんですよ。理解を助けるために、蛇足っぽいけど無理やり付け加えると、こんな感じかしら。

仮に私が事前にそれを伝えていても、
異常動作した私はあなたから該当する記憶を
消去した上で世界を変化させていただろう。
実際はあなたに対して一切の変化を加えなかった
私だが、事前に伝えた不都合な記憶までも
消去しなかったという保証はない。


 こうしてみると、3年前の長門はエラーの内容を理解できなかったけど、今や長門は「自分の中で起きたこと」やら「感情というもの」やらについて、きちんとわかってるんじゃないかしら?と思えるんですよね。だから、その後のキョンのセリフ、

脱出プログラムも残してくれただろ。十分だよ。


 を聞いて黙ってしまう長門に、言外の何かが香るような気さえしてしまいます。「…違う。あれは私自身の迷いだ。礼を言われるようなことではない、礼を言われるようなことでは…」みたいな。




長門、悪かったな…


ユキ…


 「雪…」なのでしょう、キョンの発した言葉は。だけど、キョンの謝罪の言葉に俯いた長門には、「有希…」に聞こえたかもしれない言葉です。キョンがハルヒに対してだけ特別にそうしている、「苗字ではなく名前で呼ぶ」という習慣。長門が、ひょっとして自分のことを名前で呼んだのか、と錯覚してしまうような、そういう言葉…。

 何と…何と残酷な言葉か!その言葉を受け止めて、世界に静かに降ってくる「ユキの欠片たち」を、両手で受け止めようとする「表情を見せない長門」が、美しくも儚く悲しい……。


~~~


 そこで、本作最後の「ジムノペディ」が鳴ります。


○ジムノペディ第1番
(雪の降る病院の屋上で、長門とキョンの会話にて)
 本作品中で唯一、全く同じBGMが二度使用されました。同じBGMのアレンジ違いが二回使われたケースは他にもありますが、全く同じなのはこの「ジムノペディ第1番」だけです。

 最初にこの「ジムノペディ第1番」が流れたのは、改変さ中の世界において、キョンが長門のマンションを訪ねた際。5月に図書館であった出来事を、改変後の長門から聞きながら、キョン自身は「改変前の5月」を思い出しているところでした。あのシーンの最後には、長門がキョンにお礼を言うんですよね。頬を紅く染めて、「ありがとう」と。

 そして、今回のシーンもまた…ジムノペディは流れ終わった後ですが、最後に長門はキョンにお礼を言うんです。「ありがとう」と。

 二つの「ありがとう」、そして全く同じBGM。これら二つのシーンは、強く響き合っているんですね。改変中の世界から、元の世界の図書館でのやり取りを「絵のように」望む一回目のジムノペディ。そして、元の世界から、改変中の世界での出来事~あの長門との対話を含む~を、まるで「絵のように」振り返る二回目のジムノペディ。

 これらは、方向は全く逆だけど、ともに「長門の思い」を辿る軌跡になっているように思えました。



 この長門の思いは、行き場無く止まってしまうだけなんでしょうか?

 そうではない、と、思うんですよ。

 だって、この冬の夜の屋上、世界に雪の降るシーンは、あまりにも美しいじゃないですか。そこに、悲しみ以外は何も残らない、とは思いたくないんですよ。そしてまた、この作品の冒頭で、ハルヒがみくるに言っていた言葉を思い出しませんか?

夜更け過ぎに、雨が雪へと変わる瞬間を見に行こうとかって、誰かに誘われてない?


 誘われて過ごしたロマンチックな夜、とは雲泥の差があるかもしれません。でも、結果的に長門は、そういう時間をキョンと過ごしたのですよ。夜更け過ぎに、雨が雪へと変わる瞬間を。涙のように悲しく流れるだけだったものが、美しい結晶となって思い人の上に降る奇跡を。



 キョンの抱える、長門の心にあるものへの「誤解」は、結局はまだ微妙なすれ違いを残したまま、「誤解」のままです。いいヤツなんだけどな、キョン。とてもいいヤツだとは思うんですよ?惜しいなぁ…。


「だけど…それでも、いい。

 それでも、今は、いい。

 私を、どんなことがあっても取り返すと、言ってくれたから。」


 言葉としては、決して作品中では言われてはいないこんなことを、長門は胸中で思っていたんじゃないか、とか考えるのは、ロマンチックに過ぎるでしょうか?でも、このやり取りを見てしまうと、どうしてもそう考えたくなってしまうんですよ。


「全宇宙をひっくり返してでも、必ず取り戻す!
 おまえの親玉に、そう伝えろ!」



 「…伝える。」



 この「…伝える。」の素晴らしさをですね、一体どう表現してよいのやら…この一言を聞くため「だけ」にこの映画を見たのだとしても、全然悔いの残らないほどの出来栄えなんですよ!いつもの長門のようでいて、感情がわずかに混じってしまったような、震える思いでようやく搾り出したような、そんな声で……。


 最後に一言、長門が口にする、万感の間を込めた「ありがとう」。ここは、長門の表情が画面に映りません。「消失世界」中で改変後の長門が見せた、頬を赤く染めての「ありがとう」ではなく、しかしいつもの長門が見せるであろう無感動な「ありがとう」でもなく……今の長門の、素の思いがそのまま表れた「ありがとう」を、視聴者の想像の幅に委ねて…。



【結語/Outroduction~Ending~Epilogue】
 冒頭と同じく、「いつもの風景」のアレンジBGMとともに。幕引きに、帰って来た日常を描きつつ、キョンが今回の騒動を経て「変わった自分の心境」を語っていきます。

 …くっそぅ。なんつーか、絶妙ですよねぇ、このキョンの立ち位置。よくよく考えたら、一番肝心なところにキョンはまだ向き合っていないんですよ?それこそ、それを原因としたトラブルはまだ巡ってくるだろうし、「そう遠くない未来に、またゴタゴタが待っている」であろうことは、想像に難くないわけで。「それじゃまだ足りんだろ、こらー!」てなモンなんですが…なのに、彼のこの「小ざっぱり」した面持ちよろしく、こちらまで「大団円!」というような雰囲気に飲まれてしまいます。

 まあ、一番肝心なところは見過ごしてしまったとは言え、今回のキョンはさすがにかなりの苦労をしましたし、頑張りもしたからなぁ。これでキョンを本気で怒れ、っつっても、なかなか難しいですよ。しょうがないなぁ、もう。

 青春、てのは、そういう「ちょっと進んでまた迷って」の繰り返し、なんでしょうね。



 この世界を守る側に、明示的に身を投じたことを自覚するキョンが、ポケットを探ります。この前、最後にポケットに手を入れたのは、あのしおりをねじ込んだ時でしたか…。

 しかし、そこから出てきたのはしおりではなく、一枚のレシート。12/17の夜、一連の騒動が起きる直前にコンビニで買った、飾り付け用のモールのレシートです。

 消失のあの日にカバンの中から消え失せたモール、まるでSOS団との絆…。それが、今はこうして彼の元に戻ってきた、と。行くことの難しい「元の世界」への片道切符はもう必要なくて、取り戻した絆が手元にあることの証を。…なかなかイキだと思いましたよ。ちょっと唸っちゃった。

ならば、最後まで責任を取るべきだろう。

「ざまあねえな」


 そう言いつつ、全然嫌そうじゃないですよね、ここのキョンは。妙にすっきり。自分の収まるべき位置が、明確に自覚できている証拠です。改変中の世界の中で、光陽園学院前にてハルヒを待っている時のキョンを思い出して下さい。この世界のハルヒがこの世界なりの別なSOS団を既に結成していたとしたら、自分は脇役にさえなれないと、それだけは絶対にイヤだと、そう思い詰めていたキョンを…。

 今のこのすっきりしたキョンは、あのキョンの裏返しなんですよね。自分が戻るべき位置に、ちゃんと戻れたこと。自分が負うべきものを自覚し、きっちりと背負えること。これだけで、こんなにもすっきり。そのぐらい、あえて「オレはここにいる!」と叫ぶ必要の無い世界は、得難く、有難いものなんですな。


 部室のドアノブを捻って、キョンは中へと入ります。

 同じカットが、前にも出てきていました。繰り返し、ですよね。もちろん、SOS団の部室(世界改変中は文芸部室)には、キョンは何度も入っていっているのですが、本作中で印象に残る「ドアノブを回す手元のアップ」があったのは、ここを含めて3回です。

 一回目は、事件の前、12/16。みくると直前にすれ違ったことを思い出し、中にはみくるはいないのだと溜息をつき、倦怠を帯びたしかめっ面で入っていくキョン。

 二回目は、事件発生直後、12/18。ここが陥落したら一巻の終わり、打ち切り終了だと言いながら、祈るようなすがるような表情で、長門を頼って入っていくキョン。

 一回目も二回目も、キョンの抱えている問題に繋がるものを匂わせて、キョンはSOS団への扉をくぐっているんですね。文句を垂れているだけじゃダメだ、頼り切っているだけじゃダメだ、そんなところでしょうか。

 そして、このラストシーンの、三回目。入っていくキョンの表情は、描かれていません。抱えていた問題が、一応の解決を見たから、でしょうかね。でも、全てが片付いたわけでは決してないのですが…彼がどういう気持ちで入っていったのか、この後に彼らがどのような物語を紡いでいくのか。それらはともにお預け、見ている人たちに視聴後の思いを委ねて…この物語は終わります。


~~~


 真っ暗なバックを背に、スタッフロールが上がっていく中…その歌声は朗々と響き渡ります。


「優しい忘却」



 それは長門が歌う、救いを請う歌。


 決して忘れることが出来ない少女の、忘却を願う歌、と私は解釈しました。




 長門は、忘れることが出来ない少女なんですよね。

 キョンを好きな気持ちは封印することさえ出来ず、いったんは封印した「全てを知る自分」も消去することは出来なかった(と私は捉えています)、「完全なる記憶」が、長門です。

 俗に人間は、辛いことを忘れられるから生きていける、なんてよく言われるんです。長門だって、出自はヒューマノイドインターフェースかも知れませんが、感情を持つようになってきている以上は「人間」と言って差し支えないわけですよ。だったら、最早彼女にとって「記憶し続けること」は、辛いことかもしれないんですよね。長門が、これまでの辛かったこと、叶わぬ思い、それらを「忘却」することができたら、どんなに救われることでしょうか。

 でも、それは彼女には、許されていないことなんです。切ないよね。ああ、切ないね。




 ところで、同じ歌の中で、キョンに対して願っているように見えるこんな歌詞があります。

願いが叶っても
忘れないで 忘れないで


 これは、こんな風に補完すると良いのでしょうか。

(世界を元に戻したいという)願いが叶っても
(あなたへの好意を見せた私を)忘れないで


 …あれ?

 歌ってるの、誰だ?いや、長門だけど。

 ひょっとして、今の長門ではなくて、改変中のあの長門なのか?「消える(改変中の)世界に残された、あの長門が歌う歌」だ、と?

 これはなかなか面白いですよ。歌詞の中で出てくる「自分でさえも」、ここの「自分」だけを、「元の世界の長門」を指しているのだと解釈すれば…難解だった歌詞が全てするするっと解けてきます。「選ばれた未来を見送る扉」なんてのは、キョンの脳内イメージシーンで、一人だけ改札の手前に残った長門そのものですしね。

消える世界にも
わたしの場所がある
それを知らない 自分でさえも
思い出すまでは…


 忘却することができない少女、長門。だけど、消える世界にあった「あのわたしの思い」だけは、今は忘れている…そういうことなのでしょうか。

 だとしたら…この最後の一節は、ほんのわずかな救いなのかも知れませんね。だけど、その「わずか」であることが、また一層切ないよね。ああ、切ないね…。




 途中で、伴奏がぐわーっと入ってきて、うわーっと盛り上がって、泣かされちゃうんじゃないだろうか?

 初回に見た時は、そう思っていました。まだMAXIが発売される前でしたし、事前にお披露目になっていたのはフルに伴奏の付いたNormal Ver.でしたからね。まさか、全部長門の歌のみで、完全な無伴奏だとは思わなかったんです。

 でも…何の意味もなく、これ~sonority~を採用した、とも考えにくいんです。だって、仕込みの王たる京アニの、渾身の作品ですよ?その京アニがやっていて、こんな大事なところで意味を込めないわけがありません。見ている人の感情にわかりやすく訴えかける手法を取らず、あえてこの形にしたんでしょう。

 それは、長門が「一人」だ、ってことなんじゃないですかね?

 それが、今いる「長門」なのか、「消えた改変世界に残った長門」なのかは、解釈によって振れのあるところでしょうが…いずれにせよ、長門がどうしようもなく「一人」なのだと。そういうことを表しているように、私には思えました。

 一人だけ、15,000回以上に及ぶ全ての繰り返しを覚えていた、あのエンドレスエイトと言い。

 「本当は世界が改変される一大事件だった」ことなど誰も覚えていない、今回の消失と言い。

 長門は概ね、一人ぼっちの立場が多いんですよ。一人ぼっちで、ただただ何かを待ち続けている、そんな少女なんです。


 でも。

Special thanks
All fans


 一人じゃ、ないんです。

 どんなに寂しく、一人であることを認識したとしても、真に一人なのでは、ない。作品のよりよい完成を志すスタッフが、大勢のファンの声をこの上無い励みとしたように。また、己が力量に奢ることなく、「この作品ができたのはたくさんのファンのおかげです」と、もったいなくも明言して下さるスタッフの皆様の言葉が、たくさんのファンの気持ちを大きく揺さぶったように。長門にだって、誤解はあるものの理解しようと彼なりに頑張っているキョンもいれば、仲間だと認めてはばからないハルヒだっているじゃないですか。


 私は、支える。


 私は、支えられる。


 それが、「人」というものだと。「人」らしいということなのではないでしょうか?


 長門も、「人」、なんだと。


~~~


 ED曲が終わった後に、もう少しだけ、映像が続きます。場所は図書館。そこで本を読んでいた長門が、口元を隠して終わる、意味がありそうでスパッと割り切りがたい、そんなシーンなのですが…。

 これって、長門の「感情の芽生えている証左」を示すようなシーンですよね?図書カードを作ってあげる少年、作ってもらう少女の姿を見て、つい、あの5月を…キョンが図書カードを作ってくれたあの日のことを思い出し、口元に笑みを浮かべそうになる長門。その、人間らしい感情を示す笑みを、隠そうと本を口元にあてて…。

 これは、作品中で何度も繰り返された、あの「雪のマークに気を取られる長門」と同じように、長門の心の変化を描写するものなんだと思います。それは、「自我の芽生えを象徴する行動」だと思うのですよ。


 「この雪は、私。」


 有希=雪。


 12/17のSOS団の部室で…彼女がじっと見つめる雪の結晶のマークは、自分自身なのですよね。一言も言葉は発しないけれど、その姿は雄弁に何かを語ります。「自分とは、私とは、一体何だろう?」その晩から、キョンが言っていたように「何か」が始まっていたのだとしても、それはなるほど合点のいく話なのですよ。

 キョンが長門の変調に一つの解答を導こうと自問するシーンにも、雪を意識する長門が登場していましたよね?じっと、自分自身について、自分一人で考えている長門の姿は、ぐっと胸に迫ります。

 ん?「一人で」?

 ラストの図書館のシーンも、彼女は確かに「一人」に見えたけど…あれ?じゃあ彼女は、一体誰からその笑みを隠そうとしているんだ?視聴者か?それとも、たまたま長門の様子を見ていた、他の誰かなのか?

 …まっ、誰でもいいか。これはどの道、やっぱり長門は「一人ではない」ってことなのですから。彼女が浮かべそうになった笑みも、その笑みを隠そうとした相手の存在も、長門の生きていく意義にちゃんとつながっているのですから。








ブラボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!







 さすがに劇場では一度もやりませんでしたが、つーか何でやらねぇんだみんな!そこは拍手喝采だろ、スタンディングオベーションだろーがよ!あ、いや、まさか本気でやろうと思ったわけではないですが(汗)、でも自分の中では「全俺総立ちの万雷拍手大喝采状態」でしたよ!

 臨場感に溢れると同時にどこまでも緻密な映像作りと、寸分の狂いも無いマッチングで場面を盛り上げる音楽と、視聴者にキャラクターの思いを突き付けてくる真に迫った演技と…それらが一つになった、素晴らしいものを見せて頂きました。ありがとうございます。彼らに習い、「Special Thanks to All Staffs」という短いセンテンスに感謝を込めて。




(おわり)
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テーマ:涼宮ハルヒの憂鬱 - ジャンル:アニメ・コミック

コメント
この記事へのコメント
レビューお疲れ様です
全部読ませていただきました

喫茶店の時と同様に、消失世界では「パラレルワールド」であることを示唆しているかのように「鏡・ガラスの反射」が頻繁に使われていることに気付いた時は、京アニの映像表現力を改めて思い知りましたw
一回しか見ていないので記憶があやふやなのですが、特にキョンと長門がよく鏡に映っていたようにおもいます
世界を改変しようとする長門がカーブミラーに歪んで映っているのを見た時は・・・(´;ω;`)ブワッ
2010/03/08(月) 01:16:16 | URL | akkikyy #2ogembqU[ 編集]
はじめまして
以前から拝見していたんですが初めてコメします

世界改変中の蔓延した病気についてなるほど、と唸ったんですが、、キョンが自称併発したという赤痢とペストと腸チフスはどれがハルヒ、みくる、有希だったのかが気になりましたw
2010/03/08(月) 02:33:47 | URL | 名も無いDancer #-[ 編集]
堪能しました
今日、映画を見てきました。

たぶん同世代のものですw
もやもやしていたところをどう解釈すべきか考えながら、いろいろなサイトをめぐってきたのですが、こちらの解説はにはっとさせれれっぱなしでした。

カゼや雪の結晶についての考察は本当にお見事です。
本編のシナリオは極上のできだったとおもうのですが、キョンが異変に気づいてから、有希に話を聞こうと思うまでのくだりが異常に長いことは、何か意味があると思われますか?
2010/03/14(日) 22:03:57 | URL | oka #-[ 編集]
 
私の地方では今日から公開でした。エンドレスエイトはこの作品のためにあったように思いました。私たちはキョン視点でしか見れませんが、長門は何万回も繰り返していてたかが8回でブチ切れてる(笑)我々に彼女を責める権利はありませんよね。    ・・・えっと話がそれましたが非常に面白かったです。まだまだ消化不良なところもありますが、てりぃさんの文章を読ませていただいてもう一度観てみたくなりました。夜勤あけでも気合いを入れて観に行ってこようと思います(^^ゞ
2010/05/08(土) 18:47:37 | URL | u-suke #-[ 編集]
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