Old Dancer's BLOG
ここはてりぃが、趣味の共通する方々との得がたいつながりのために、自分の趣味に関係する諸々のことを、壊れながら書きつづるブログです。
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涼宮ハルヒの消失 II
 そんなはずはない!!

 後になってそう叫ぶことは、案外簡単なのだ。

 だけど、後悔は決して自分を待ってはくれない。大事なものをなくしたとて、リセットも利かなければ待ったもできない。取り返しの付かないこと。世の中にいくらでもあるそれらが大概後悔にまみれているのは、「何故あの時にこうしておかなかったのだろう」という分岐点が、自分にもわかってしまうからではないか。

 起きてしまってからでは遅い、大事なものの消失を…いつでも起き得るそのことを、僕らはなるべく目に入れぬようにして生きている。もっと大事にしておくべきだった、もっと正面から向き合うべきだった…そんな、未来の後悔の声にも、耳を貸さずに。

 …さぁ。この、後悔が起きてしまってからの状況で、僕は一体、何と向き合おうか?
 
※ご注意
 劇場版「涼宮ハルヒの消失」のレビューは、複数の記事にわけてお送りいたします。一連のものとしてお読みいただくことを想定していますが、個々に独立してお読みいただいても大丈夫なよう、構成に気をつけたつもりです。

 この記事は、レビュー記事の二つ目です。一連の記事を全て順番にお読みいただく場合は、最初のレビュー記事からスタートして、記事の末尾にあるリンクから続きへと進んで下さい(リンクは、続き記事がアップ出来次第、順次ご用意します)。また、劇場版「涼宮ハルヒの消失」に限らず、TVシリーズのレビューや関連記事などを拾い読みしたい場合には、当ブログ内のハルヒ関連記事ポータルと位置付けておりますハルヒ記事リンク集が便利です。どうぞご活用下さい。



【症候~病みに覆われる世界】
 一夜明けて。12/18。


 一見、世界は前夜から隙間なく続いているように見えますが…微妙な変化は、既に起こっています。それを、「大変な変化である」とキョンが気付けるのはもう少し後になってからですけれど。


 谷口が、風邪を引いています。


 谷口だけではなく、クラスの中でもかなりの人数が、マスクを着け、或いは欠席し…。


 何でしょうね、こうやってたくさんの人が病にかかってる様というのは、それだけで非常に不景気です。単に気温が低いだけ、寒々しいだけ、というのとは微妙に異なる、暗鬱たる気分を惹起する空気、澱みに飲まれている明るさ、くすんだ色にかすむ世界…。こうした言葉に乗せれば意味や印象を膨らませられるこの「状況」を、精緻な映像により「修飾語抜きで」きっちりと描写してくる力量が素晴らしいですね…。

 京アニが映像に対して、その描写力を如何なく発揮し、余すことなく注ぎ込もうとするその時、大抵そこには「表したい何か」が潜んでいることが多いのですが…。


薬もなかなか効かないみたい。



 クラスの中のざわめきからは、そんな声も聞こえます。もちろん、たちの悪い風邪だ、ってことなんでしょうけれど…ついつい、邪推しちゃうんですよね、これすらも。

 後々判明する通り、この時には世界はもう改変された後です。改変された世界で、真っ先に目に付いたのが、風邪の蔓延する校内だった。キョンが変化に気付くきっかけとしてだけなら、昨日まであんなに元気だった谷口が、週の頭から風邪を引いてたことになってるってだけでも十分なんですよ。だけど、EDのキャスト一覧に出てさえこないようなクラスメートも含め、たくさんの人が「薬もなかなか効かない」ような風邪に苦しんでいた……何か意味ありげじゃないですか?

 改変後の世界が、風邪に犯されている。そのことが、表すものは一体何でしょうか?


~~~


 一つの可能性として。「世界の改変者が、そのようにすることを望んだのではないか?」という解釈があり得ます。何か、改変者の都合で、世界に風邪を蔓延させる必要があって。或いは意味などないかもしれないけど、改変者がそのように望んで。その結果として、当然にこうなったものである、と。この風邪の蔓延した状況は、合目的な意志の帰結である、と。それはそれで、如何にもありそうですよね。けれども…僕は、正反対のことを思ったんです。

 この風邪は、改変者が直接望んだものではなく、単に「改変者の置かれた状況」が反映されたものなのではないか?というのがそれです。改変者自身が、風邪のようなものに犯されていて、それが改変後の世界にも投影されたのだ、と。改変者自身が、「薬もなかなか効かない」ような病気を患っていて、それが世界の基礎的なステータスに位置づけられてしまったのだ、と。

 その病気、とは。薬もなかなか効かないような、やっかいな病気。それでいて、誰もがかかるような、風邪のような病気、とは。これって何だと思いますか?

 あとで明らかになる「改変者」は、確かに「世界を変えてしまおうと考えるくらいに、おかしくなっちまった」という風に、後半のキョンのモノローグで言われています。変調。そうですね、変調には違いないと思います。だけど…それって、本当にただ「おかしくなっちまった」だけ、なんでしょうか?

 僕は…とても象徴的だと思うのですよ。最初に「風邪を引いた様子」を作中で見せたのが、あの谷口だった、ってところが、とっても。だって谷口は、改変前からかかっていませんでしたっけ?薬も効かないようなやっかいなもので、誰もがかかるようなものに…。

 お分かりでしょうか?改変者が患ったらしい、薬では治らない病、とは…。



【消失~消え失せたものと、その認識と】
 このように、色々な意味で大きなヒントを、谷口は12/18の朝の時点で既に抱えていたと思うんです。これもまた後で明らかになるように、閉息したキョンの状況を突破する重要な情報も持っていましたし。

 けれど…谷口はいったん、舞台の上から退場させられてしまいましたね。これはキョンにとっては取りも直さず、「解決への近道」が、目の前から消失したことを意味します。


 消失の始まり、です。


 弁当を食べようとして、鞄を開ける。すると、昨夜にコンビニで購入し、今日の放課後に向けて間違いなく詰めたはずの「モール」が全部、「消失」しています。あの長いヒモ状のモールは、形状としては「綱」ですよね。一体、キョンと何とをつなぐべき「綱」だったのか…。


 キョンが国木田と話す際、キョンを画面の左端にとらえ、窓ガラスを大きく写したアングルが採られているのですが…窓の外には景色らしい景色も見えず、あまりにも白々と目に映るのです。まっ白な、何もないキョンの背中。キョンの後ろが…キョンの過去が、まるで「消失」してしまったかのように…。


 キョンのお弁当。既にこの時、キョンは気がかりのせいで食欲などは二の次になっていて、蓋を開ける様がすごくスローモーです。なかなか見えない、お弁当の中身。そして、意を決して国木田に投げた問い~「谷口が風邪を引いたのは今日からだと思うんだが…」~をあっさり否定されたキョンは、ショックのあまりにせっかく開けたお弁当の蓋を、ずるずると戻してしまうんですね。この時、ご飯の真ん中には、日本人のお弁当の定番とも言える梅干しが。「日の丸弁当」という言い方からすれば、梅干しは「太陽」みたいなもんです。だけど、蓋で隠されていく、その太陽…。


 これら一連のシークエンスで、「キョンが失ったもの」「キョンの日常から消失したもの」の重みが、象徴されてはいないでしょうか?


 綱~SOS団との「絆」だったり。


 背中~SOS団と紡いできたこれまでの時間=「過去」だったり。


 梅干し~SOS団の中でもまるで「太陽」になぞらえられるような存在、だったり。


 そうして、更に間を置かず、それらキョンにとって大事なものの「消失」を、まるで決定付けるような存在が姿を現します…そう、「朝倉涼子という存在」が…。


~~~


 すごかったですねぇ。ギリギリもギリギリ、キョンと正面から向き合う寸前まで顔を写さず、声と足元と後姿だけで視聴者に迫るこの怖さ!「朝倉が再登場する」ということを「情報」としては知っていた僕でさえ、この怖さには参りましたよ…。スローモーションでたっぷり時間を取って、刻々と近付いてくる「宣告」にも似た瞬間の表現!満を持してその顔がアップになったのも束の間、「まさか…ウソだろ…」というキョンの心境にかぶせたかのように、ぼかした映像に切り替わるというイキ、更にそこへBGMの変化~まがまがしさを秘めながらも美しく響く賛美歌のようなコーラスをドンピシャで合わせてくるこの完成度!

 あり得ないものを見たこの驚愕とともに!朝倉がいなくなった後の世界で紡いできた「絆」も!朝倉に殺されかけ辛くも救われたという「過去」も!朝倉が今まさにその居場所を占拠してしまった「太陽」も!全てが塗り変えられてしまったことに思い至って!!


そんなはずはない、そんなはずはない、そんなはずは……


ない……!



 動揺。それも生半なものではなく、自分の存在基盤が危うくなるほどの、激しい動揺…。この杉田さんの演技ね、もうね、涙腺に直撃するレベルですよ…。「当たり前」と思っていた世界を、自分の目でも完璧に否定され、耳から入ってくる友人たちの言葉も全て敵に回り、ただ独り言のように「そんなはずはない」を繰り返すことしかできなくなって、それも次第に弱々しくなって…。

 それでも、と、キョンはなおも何かにすがろうとします。クラスを飛び出て、救いを求めようと、危うげな足取りで駆けて…。でも、そうしてすがろうとしたものさえ、結局はダメ押しにしかならないなんて…こんな辛い体験、そうそうないですよ。古泉はクラスごと消えていて。みくるはキョンのことを全く覚えていなくて。長門さえもハルヒのことを「知らない」と言って。「絆」も「過去」も「太陽」も、全部無かったことになってる、ということを確かめただけだなんて…。

 取り乱したキョンを…正常な心理だったら絶対言わない・やらないような言動・行動に走るキョンを、笑うことができる人は、そこそこに幸せな人生を歩んでいるのだと思います。僕は、自分では今までそこそこ幸せな道を歩いてきたと思ってるけど、でも笑えなかったもの。足が萎えて歩けない、とか。相手が傷つくことも想像できずに「胸のホクロを見せてほしい」と言ってしまうとことか。乱暴するつもりなんかないのに、気付けば少女を壁に押しつけて怒鳴っていた(「退屈」におけるホームランバット、「ミステリックサイン」におけるカマドウマ空間、「エンドレスエイト」における15000回の繰り返しなど、キョンの知っている「SOS団と長門の過去」を何とか確認しようとする様が、感慨深くも痛々しいです…)、とか。全然笑えませんでしたよ、むしろ、そうまでしても、自分の足下を再確認せずにはいられないキョンに、感情移入しっぱなしでした。

 …そりゃ、僕がキョンと全く同じ経験をしているわけではないんです。けれど、自分のレゾンデートルやら存在基盤やらにヒビが入りそうになったとき、取り乱してしまって痛々しい行動に走った経験の一つや二つ、簡単に思い出せるのよ。そうだなぁ…付き合っていた彼女から、全く予期せぬ「別れ話」を切り出された時とか。仕事がどうにも上手く回せなかった職場で、「お前なんか要らない」と、先輩格の同僚から面と向かって言われた時とか。そういう話なら、誰だって遭遇し得るでしょ?そして、その程度だって、人によっては十分に、自分の基盤を、存在意義を、揺るがすに足りるショックだと思うんです。

 ましてや…この9ヶ月間にわたり、自分の生活の中心に密着していたものが、いきなり「無かったこと」にされていることの衝撃と言ったら…想像するにあまりあります。


 動揺するキョン。痛々しいキョン。だけど、僕にはその様が殊更に痛々しく思えて、つい余計に拳を握ってしまうんです。だって、ここまで動揺しているキョンなのに、この時の彼は「何故ここまで動揺しているのか」について、まだ的確に思い至っていないように見えるんですもの。「絆」とか「過去」とかはともかくとして、彼にとっての「太陽」を失ったことが一番の打撃なのだということには…まだ彼は表層では、ちゃんと向き合えていないようにも見えるんですよね…。


~~~


長門!
(中略)
これはお前からのプレゼントでいいんだよな?状況を打破するヒントをお前がくれた、それでいいんだよな?


 「憂鬱II」で、長門から渡された「ハイペリオン」。あの時、この本の中に隠されていた長門からのメッセージ。そのことを思い出したキョンは、同じ「ハイペリオン」の中から、ついに「ヒント」らしきものを見つけることが出来ます。

 …そこにきて、このセリフ、ですよ。キョンの心の中の声で、喜びに満ちた表情とともに言われるもの、ですが…なんで彼は確信が持てないでいるのでしょうね?「やっぱりヒントをくれたんだな!ありがとう、長門!」みたいな言葉でもいいはずなのに。

 疑念?…いや、そんなに形のはっきりしたものでは無いでしょう。だけど、キョンは…表向きはどうあれ、深層では何かに気付いているんじゃないでしょうかね?その何かは、

 「何故、長門は、キョンを助けるのか?」

 の答えであるとか。言い方を変えれば、

 「キョンを長門が助けたいと願う、その動機は何なのだ?」

 の答えであるとか。

 キョンが後で胸中で述懐するように、長門は「感情」を持ち始めています。感情を持つ者であれば、機械的に己の使命を果たすだけ、にはならないはず。明に暗に、その者の意志が行動のあちこちに出てくるはずです。キョンだって、それらは目にしているはずです。だから表面上はともかく、キョンだって「長門有希の心にあるもの」は知っていておかしくないのですよ。


 例えば…。


 SOS団のものではなくなってしまった文芸部室から立ち去ろうとするキョンに、「良かったら…」と言って入部届けを差し出す長門。


 例えば…。


 鍋を食べずに帰ろうとするキョンの、袖を引いて引き止める長門。


 しかも、ともに、伏せ気味の顔を、赤らめながら…。


 これで何も気づかんとか、もう朴念仁と誹られたって文句言えんだろ!「こちらの長門は極度の照れ症なのか、それとも、人に注目されることになれてないだけなのか。」なんて、鈍感にも程があるだろ!こんな愛らしく顔を赤らめる様を何度も見ていたら、「こいつ、オレに気があるんじゃないのか?」って、普通に思っちゃうだろ!それが何となくわかってるからこそ、キョンだって「このまま文芸部に入部して…」とひとりごちたり、前言撤回して食って帰ることにしたんだろ!なのになのに…ナンで肝心なところに正面から向き合わんかなぁ!!


これはお前からのプレゼントでいいんだよな?状況を打破するヒントをお前がくれた。それでいいんだよな?



 単純に、「ヒントをくれた」ということで、喜んでいいのかどうか…わざわざこんな問いかけを心の中でしているキョンは、このしおりを残してくれた長門の複雑な胸中を、深層ではわかってるような気がするんです…。


~~~


 なかなか表に出てこない、キョンの思い。それが、長門の家からの帰り道で、とうとう誰にもわかる形で出てしまいます。「たまには俺の願いを聞いてくれてもいいだろうが」とつぶやいた後、何かに気付いてやや呆けた顔を上げるキョン…それにシンクロしたかのように、街路灯の下に近付いていくキョンは、暗がりから灯りの下へと歩んでいって…。


 とうとう明るみに出る、キョンの願い。


「なんてこった…」



オレは………

ハルヒに会いたかった。



 やっとハルヒへ向かう思いを認めた!ブラボー!と思うのか、遅ぇよ、しかもまだまだ認識が足りねぇよ!と思うのか…それとも、長門、可哀想…と嘆くのか…。見る人によって、受け取り方は様々かと思いますが…。

 ともあれ。キョンは、認めたのです。何故、こんなにも、この状況が苦しいのか。少なくとも、「ハルヒがいてSOS団があって、ドタバタしているあの日常」こそが、彼にとって無くてはならないもの、消失してはならないものなんですよ。



【象徴~キョンと、失われたものと】
 傘。


 消火器。


 キョンが学校の廊下を歩いていく際、それぞれ一瞬だけ映るカットです。


 傘。学校に置かれてるのは置き傘でしょうから本来は、雨が降ったら緊急避難的に必要になるもの、です。この場面では、誰かが置き忘れたかのように、ぽつねんと窓の桟に引っかけられていますけど。


 消火器。言うまでもなく、火災の時=非常時に役に立つもの、です。この場面ではそのような状況には程遠く、誰も気にかけていない存在のような、寂しげな姿をさらしていますけど。

 これらはともに、「忘れ去られたSOS」の象徴、ではないでしょうか?非常事態において活躍するはずのもの、誰かのSOSに応えるべきもの。そういうものが、「忘れ去られたような光景」を表しているのではないでしょうか?

 ハルヒがいない世界。当然、SOS団も存在しない世界。一般の生徒はもちろんのこと、SOS団員であったはずの人々でさえ、「SOS団」のことを誰も覚えていないのです。ただ一人、キョンを除いて。

 とりあえず文芸部室に行くキョンですが、そこには彼が望む「SOS団」はないのです。そして、キョン自身が発している「SOS」に、応えてくれるような存在も…。


~~~


 蓑虫。


 学校の焼却炉にあった蓑虫のぶら下がった枝を、キョンは持ち運び、安全な場所へと移動します。これは、このシーンにかぶさっている彼のモノローグが示すとおり、「とても不幸な状況に置かれた者を、本人の意向と関わりなく、『不幸じゃない状況』へと勝手に移動させている」わけですよね。

 つまりは、この蓑虫、かような状況に陥っている今のキョン自身の象徴、でもあります。

 「本当は幸せなくせに、不幸を背負ってるみたいに愚痴ってばっかりいるから、神様に移動させられちゃうんだよ」とか言ったら可哀想かもしれませんが…もし本当に、蓑虫が不幸な状況にあったなら、移動させられても文句は無いはずなんですよね。そこに、疑問を抱く余地があるということは…キョンはもう、半分以上気付いているわけです。「自分が不幸だ不幸だと言っていたあの状況こそ、自分が今失って嘆いている部分なのだ」ということに。あの日々が、彼にとっては「決して不幸などではなかった」と、「むしろ楽しい日々だったのだ」ということに。

 蓑虫。自分の本体を、木の枝などで懸命に覆い隠して、その中に隠れて外には見せないようにして…。

 それが、キョンと重なるものである、象徴するものである、というのは、なかなか出来すぎた比喩だと思うんですよね。




 球根。


 女生徒たちが、球根を花壇に植えようとしている様を、キョンは自分の席から眺めます。モノローグは、先の蓑虫のところから続いていて…つまりは、これもまた、同様のものを象徴する存在として描かれていそうです。

 球根本人の意思とは関係なく、発芽しやすいような環境を整えてもらって、お膳立てをされて…それで一体、球根自身は幸せなのだろうか?という具合になるでしょうか。

 球根は、ものを考えません。少なくとも一般には、人間が知覚できる形で「球根がものを考えている」という事実は証明されていません。だから、球根本人の意思、なんて言ってみたってナンセンス以外の何者でもないのですが…でも、蓑虫と同様に、そこに象徴されているキョンは、ちゃんとものも考えることが出来るし、願うことだってできて、何よりもそのことを「周りに対しても自分に対しても表明する自由がある」んですよね。

 球根よ、お前、本当はどうして欲しいんだ?発芽なんかしたくないか?それとも、発芽するにしたって別な場所の方がいいか、別な季節の方が好きなのか?自分の思うようにしたいなら手伝ってやるから、したいことを言ってみればいいじゃないか?

 球根。今は皮に身を隠して、眠りのときについているけれど、時が来れば青々と葉を伸ばし、美しい花を咲かせるはずの…。

 それが、キョンと重なるものである、象徴するものである、というのは、これまたなかなか出来すぎた比喩だと思うのです。


~~~


 何をすべきかわからず、とりあえず文芸部室へと来たキョンが、長門に対して「書く方はしないのか」と尋ねるシーンがありました。長門自身は、「書かない」と答えるのですが、キョンはいぶかしがるんですよね。本当は書く方もやっていて、実は前日に整理したパソコン上のデータの中には、長門が書いた小説が含まれてたんじゃないか、と。ひょっとして恋愛ものじゃないだろうな、とも。

 …本筋からしたら、割とどうでもよさそうな部分にも見えます。これが原作中にあるセリフなのかどうかは知りませんが…もしあったとしたら、このとても長尺の映画の中で、何故だかカットされずに残してあるわけですよ。もともと原作に無いセリフだとしたら、「わざわざ付け加えた」、と。てことはどちらにせよ、「何かの意味がある」と思えるんですよ。

 長門が、小説を書いている、ということ。それは、長門がストーリーを、何らかの筋書きを書いている、ということです。例えば、「今キョンが陥っている状況は、長門がそのシナリオを書いている」ことの象徴、という解釈は成り立たないでしょうか?

 ならば、そのことを長門が、キョンに対して「認めたくない、知らせたくない」というのも、道理のような気がするんですよね。あれ?でも一方で、「ヒント」は残してるんだよな、長門は…。確かにこの辺が、難しい部分ではありますが…。

 でも、「恋愛もの」かもしれない筋書きを、キョンが絡む現状のシナリオを、実は長門が書いていて、更にそれをキョンに対して隠したいと思っていた、というのは、この状況にピッタリと合いすぎていて、なかなか捨て難い解釈です。そうだとしたら…そりゃあ読んでみたいよな、キョンよ。この先の展開が読めたなら、一気に問題解決かも知れんもの。ねぇ?



書くか読むか、悩んでたんだよ、オレは。


 文芸部への入部なんて似合わない、と切り捨てる朝倉から、読む方か書く方かを尋ねられた時のキョンのセリフです。先の長門についてのシーンとかぶるモチーフですよね。

 もし、「小説書き」が「自らシナリオを描くこと」の象徴であり、ひいては「その実現の方向に努力する」ことを表しているのなら…その場凌ぎの間に合わせとは言え、キョンが「書くか読むかを悩んでいた」と言うのは、実に意味深だと思います。

 読む方に徹する~事態を傍観し、訪れる状況に従うだけなのか。

 書く方もする~自ら進むべき道を考え、自ら主体的に動くのか。

 今までは文句を言いながら状況に流されるだけだったキョン。そのキョンの直面する問題を、実に的確にあぶりだしていると思うのです。


~~~


 最後に、象徴するものを、もう一つだけ。

水酸化ナトリウムについて教えてやってくれ。特に、塩酸と仲がいいか…


 これは、化学の問題について聞きにきた谷口を、多分気持ちにそんな余裕がないからでしょう、国木田へと振ろうとするキョンのセリフですが…。

 キョンらしい、持って回った言い方、ではあります。だけど、それだけかしら?


 水酸化ナトリウム。化学式は、NaOH。頭文字は「N」。


 塩酸。化学式は、HCl。頭文字は「H」。


 …よもやと思いますが、まさかこれ、「N」agato、「H」aruhiの隠語として、用いられているんじゃないでしょうね?


長門のことについて教えてやってくれ。特に、ハルヒと仲がいいか…



 …そのことについて、一番知らなきゃいけないのは…キョン、お前自身なんじゃないのかい?


 せっかく花を咲かせる要素があるのに、自ら蓑虫のように閉じこもって、自分で行きたい道のシナリオも書かずに、そのまま全てを「忘れ去られたもの」にしてしまうつもりなのかい?



 
 
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テーマ:涼宮ハルヒの憂鬱 - ジャンル:アニメ・コミック

コメント
この記事へのコメント
すごい!それとも気づかなかったのは自分だけ?
>お分かりでしょうか?改変者が患ったらしい、薬では治らない病、とは…。

改変後の世界、クラス内で風邪が蔓延しているのは原作からそうでしたし、自分も知っていたのに、「薬の効かない・尚かつ誰でもがかかる病」という暗喩にまったく気づきませんでした。谷口の病状が説得力を増しているのがすごいですね。

メタなことを言えば脚本上の理由で「風邪を蔓延」させた可能性も否定できませんが、おそらく、というかきっとてりぃさんの読みは原作者の意図と同じなんでしょうね。それぐらい、読んだ瞬間にピタリとピースがはまりこんだ気がしました。
2010/02/17(水) 00:27:44 | URL | あるかさ #9WAugNKs[ 編集]
無題Ⅰ
 失礼いたします。
原作は読みましたが、まだ映画版「消失」は観ておりません。
てりぃ様の記事を拝見したかぎりでは、原作p.74あたりの「こういう例えはどうだろう。とあるところにとても不幸な人がいたとする」から「俺は、今幸せなのか?」あたりの、消失世界にある事と無い事や、その世界の中で現在は幸せなのかどうかと自問するところではないかと想像します。
としますと、原作ではキョンのモノローグだけなので情景は何も無いのですが、モノローグと重ねて考えるに象徴描写は

「傘」   :「サムデイ イン ザ レイン」で持ち帰ったはずの傘→ハルヒの不在
「消火器」:火よりも、血よりも赤いコート→長門の心が産んだ朝倉
「ミノムシ」:火(のような心)から逃してあげた、いとおしい存在→蓑虫のような寝袋にくるまった人物
「球根」  :消失世界に大事に移し変えられ、花開くかもしれない人物→長門、もしくはキョン自身

ではないかと妄想する次第です。
「エンドレスエイト」のセミ、たこ焼き、カエル、入道雲と飛行機やら
「溜息Ⅰ、Ⅱ」のBB弾とペットボトルのような演出ではないかと愚考いたします。
 それから、長門の小説=消失のシナリオのくだりにはハッといたしました。
2010/02/20(土) 02:19:41 | URL | Mizukami #-[ 編集]
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